身体表現性障害(身体症状症)

身体表現性障害(身体症状症)とは?その原因について

身体の痛みが長く続いている、他にも身体的不調がどうも治らない。
こういった症状を抱えて不安を感じている方はたくさんいらっしゃると思いますし、もしその症状がどの病院にかかっても原因不明だった場合、さらに心配は増えていきます。
なかには、病院自体に不信感を抱いてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな時、一度疑ってほしい症状があります、それが今回ご紹介する「身体表現性障害」です。
不安を抱えたままでいるより、この症状のことをよく知って、適切な病院で診察してもらうことで、大きな悩みがひとつ消えるかもしれません。

身体表現性障害とはどんな病気?

まず、身体表現性障害とはどういうものなのでしょうか。
はっきりとした原因の特定は難しいのですが、一般的にストレスや不安要因が原因で脳の機能低下を起こし痛みを感じてしまう場合や、痛みのもとは消えているのに痛みを感じてしまう錯覚などが原因だと言われています。
ただ、間違ってはいけないのがこれは仮病ではありません。
そこに痛みの原因となるものは存在しないのに、脳の働きや神経の錯覚によって「実際に痛みを感じている」もしくは「痛みを感じやすくなっている」状態。
これを身体表現性障害と呼ぶのです。

身体表現性障害の原因

では、身体表現性障害の原因を見ていきましょう。

身体的症状の原因が身体にない

まず、この事実はしっかりと認識しておきましょう。
身体表現性障害の原因を考える時に、その症状の原因が体の不調によるものではないとしっかりと判明しておくことが必要です。
いわゆる、検査や診察によって、体に不調はないのに症状がある。
これが重要な要素であり、この確認がない場合は、大きな疾病が隠れている場合もありますから注意が必要です。

身体表現性障害の主な原因はいわゆるストレス

身体表現性障害の主な原因はストレス。
これは、いわゆる、出社や登校前に何となくお腹が痛くなったり下痢をしたりという症状がでてしまう、といったものと同種のもので精神が体に影響を及ぼしている結果起こるものです。
ですので、その根本的な原因は「精神にストレスを与えているもの」ということになるでしょう。

心理社会的要因

何かの責任を回避したい(例:学校に行きたくない・誰かに会いたくない)
激しい感情の発露(例:個人に対する怒り・特定条件での恐怖)
など様々な社会的な不安要因によって起こる場合があります。
また、この障害がある患者さんの一部には、不安定な家庭で育ち、虐待を受けているような人もいます。
社会的な慣習、文化的な要素が原因となる場合もあるのです。

生理学的要因

反復する刺激になかなかなれない、過度の注意散漫傾向があるなど、注意と認知の障害が原因となる場合があります。
これには遺伝的要素があるとも言われています。

初期症状の継続と誤解

また、身体表現性障害と言われるものにまで「発達」する原因としてあげられるのが、初期症状の継続によるストレスです。
これには、原因不明の痛みが続くというストレスもあります。
また、特徴的なものとしては、原因不明な痛みや身体症状があるにもかかわらず、それを特定することができず、何度も同じ検査や診察を繰り返すことです。
その結果なんの進展もなく、対処療法しかできないことがあげられます。
そして、病院にかかって精密な検査をしたにもかかわらず、身体的症状が続くことへの不安や恐怖といったストレスが原因にある場合もあります。

身体表現性障害の
経過と診断はこうなります

では、身体表現性障害の経過と診断について見ていきましょう。

経過

基本的には、成人早期に始まる障害と言われています。
表面的には、精神的な原因で起こっている症状とは思えず、また慢性的な痛みを伴うものですので、ほとんどの患者さんはどこかの医療機関への通院歴があります。
また、複数の医療機関に通院するなど過度な医療を求める傾向がある場合もあり、この患者さんが1年以上も治療を求めずにいることはめったにないと言われています。
なお、新しいストレスやストレスの増大で症状が悪化することもあります。

診断

診断にはDSM-5という診断基準が使われます。
これは、アメリカ精神医学会が出版しているもので、正式には「精神疾患の診断・統計マニュアル」といいます。
DSMは1952年に第1版が出版され、そして2014年に第5版が出版されました、その第5版がDSM-5になるというわけです。
この基準は現在国際的に広く使われている基準となります。
では、実際どのような症状を持って身体表現性障害は認定されるのか、それは次で見ていきましょう。

DSM-5による
身体表現性障害の診断

ちなみにDSM-5では「身体症状症」という名称になっています。
身体表現性障害は、古い名称になりますが、新しい名称と併記しながら説明していきます。
それでは、診断基準について見ていきましょう。

身体症状症
  • A. 仕事や生活に影響する身体の不調や痛みがひとつ以上ある

  • B. 以下の状態に当てはまる身体症状や、そのせいで起こる行き過ぎた感情や行動がある。

    1. 自身の症状の深刻さについて不釣り合いであると予想し続ける思考。
    2. 自分の健康や痛みなどの症状に対して不安がずっと続く。
    3. 上記の1、2にたくさんの労力や時間が費やされている状態である。

  • C. 身体症状は持続的に存在しているものが存在していなくても、何らかの症状のある状態が持続している。(典型例は6ヶ月以上)

上記に当てはまれば、身体表現性障害と認定されます。
またこの他にその程度を測る基準もありますが、それもDSM-5によってしっかりと決められています。

身体表現性障害は
いくつかに分類されます。

では、ここからは身体表現性障害の分類を見ていきましょう。

  • ・心気障害

    痛みに対して過度な心配をしたりする症状です。
    ちょっとした痛みなどに敏感になり、「がんではないか」や「脳腫瘍ではないか」といった心配をしてしまう症状です。
    心身の不調から来る新規症状では、特に診断に拘るといった特徴があります。

  • ・身体化障害

    身体的症状が慢性的に続いている状態です。
    主に、嘔吐・下痢・性的無関心・麻痺。けいれんなどの症状があり、診断でのこだわりはあまりなく、とにかく症状を良くしたいという希望を強く持ちます。
    この結果、原因が特定されないストレスからさらに症状が悪化する原因となりやすいものになります。

  • ・自律神経機能不全

    動悸・発汗・口渇・排尿困難など、自律神経症状が主にでます。
    一般的に自律神経失調症と診断されることが多いのですが、自律神経失調症の治療では改善しない場合がほとんどです。

    ■関連リンク

    自律神経失調症の主な症状と自己診断について

  • ・疼痛性障害

    長期にわたって強い痛みを感じ、腰痛・腹痛・舌痛・胸痛・頭痛などがよくみられる症状です。
    さらに、日常生活や職場生活にも影響を与え、酷くなると入院する場合もあるそうです。

  • ・鑑別不能型身体表現性障害

    倦怠感や食欲減退などが6ヶ月以上持続している状態です。

  • ・転換性障害

    身体の様々な部位の麻痺や脱力、触覚や聴覚・視覚などの欠陥、発作やけいれん等が出ます。

  • ・身体醜形障害

    自分の外見への過度な心配です。
    自分の容姿を過度に醜いと感じたり、自信喪失や嫌悪を強く感じる状態です。
    自らの容姿が醜いと感じることによって、外出したり社会生活をおくったりすることが困難になる程度の場合を言います。

  • ・特定不能の身体表現性障害

    他の身体表現性障害にない症状をもつもの。想像妊娠等。

慢性腰痛は身体表現性障害の
可能性があります

慢性腰痛の原因が身体表現性障害の可能性もあります。

慢性腰痛の原因

慢性腰痛は身体表現性障害の可能性があります

慢性腰痛とは3ヶ月以上腰の痛みが続くことが特徴です。
原因不明で、長引く腰の痛みにはストレス要因や不安要因が関係しているようです。
但し、ヘルニアなどの器質的な障害なのか、ストレスの負荷が脳に影響を与えていて身体に疼痛性障害が引き起こされるのかは、本人も医師にも分らないこともあるそうです。
さらに、それらがミックスされている状態の可能性が高いといわれています。
また、診断がつかないと患者さんは不安を感じ、それがストレスになるという悪循環が生まれます。腰痛が5年以上続き、いろいろな治療を試したが、よくならないという場合は、心因性の腰痛として捉えてもいいでしょう。
その症状に適切な治療方法で対応しましょう。

腰痛だけではない慢性的痛み全般に気をつける

もちろん慢性的な痛みで腰痛が顕著だというのであって、他の痛みも同じ場合があります。
痛みを感じているのに、なかなか治らない、原因がはっきりしない、という場合は身体表現性障害の可能性を考えておくことが必要です。

身体表現性障害は、
他の精神疾患を
併発する可能性もあります

身体表現性障害はその性質上、他の精神疾患を併発する可能性があります。

身体表現性障害がうつを併発する

うつ病と身体表現性障害は別の症状です。
ただし、身体表現性障害は、いわば原因不明の痛みや身体症状ですので、そこには大きなストレスがかかり、心身的な不安や不満を伴います。
その結果、そのストレスがうつを引き起こす場合があるのです。
ですので、身体表現性障害があるからと行ってイコールうつの状態もしくはうつ病ということはありませんが、身体表現性障害のせいでそこにうつが発症している可能性はあるのです。

うつ症状が身体表現性障害を起こす場合もある

身体表現性障害はストレスが原因で起こるもの。
ですので、うつの症状が身体表現性障害を引き起こす場合もあります。

症例報告~ストレスからくる痛みに悩まされた患者さんの場合~

44歳 男性

(約8ヶ月間鎮痛剤服用)

長年、介護による負担からストレスをためるようになり、全身の痛みを慢性的に訴えていました。他院では、レントゲンを撮っても異常なしと診断され、痛みを抑える鎮痛剤を処方され、服用していましたが、痛みから不眠にも悩まされ、感情のコントロールも難しく感じるようになっていた状態でした。
妻から、もしかしたらうつ病からくる痛みなのではないかと言われ、思い当たることもあり、薬を使わない治療を行うクリニックがあると奥様の勧めでご来院いただきました。
精神科の受診は初めてでしたが、光トポグラフィー検査でうつ傾向のグラフ化された結果を見て、やっぱりそうかと認識されていました。薬による治療を受け入れられなかったのと、TMS治療を受けた方の体験談やその効果を感じ、治療を受けようと思ったそうです。
実際、TMS治療は最初は痛みに耐えられないご様子だったため、何度か調整しながら行いました。徐々に慣れ、治療回数を重ねるたびに、気持ちや痛みの度合いが軽くなったと自覚されていました。気持ちの切り替えも以前より早くできるようになったそうです。

身体表現性障害の主な治療方法

そんな身体障害性症状、その治療方法を見ていきましょう。

  • ・基本的な認識

    まず、身体的な問題がないことをしっかり認識することが大切です。
    患者さんにとっては、実際に痛みや様々な体の不調を伴う症状ですので、そこに身体的原因が存在しないという認知は受け入れがたく強い抵抗があります。
    しかし、検査を何度も繰り返したり、検査結果に基づかない治療を続けても症状は改善しません。
    むしろ、その事による不安でより長引くこともあります。

  • ・軽い症状の場合

    症状が軽い場合は、できるだけ普段どおりのに生活することが重要です。

  • ・薬物治療

    抗うつ剤や抗不安剤の仕様が有効な場合があります。
    特に痛みの症状が強くでている患者さんに対してはセロトニンやノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)と呼ばれるタイプの抗うつ剤を使う場合があります。

  • ・認知行動療法

    症状が悪くなるきっかけや、症状が良くなる因子を明確にします。
    こうして症状が出るきっかけと治るきっかけを押さえ、それに基づく行動をすることによって、速やかな症状の回避を覚えていきます。

  • ・精神療法

    症状の原因となるストレスを理解したりその対処を考えていきます。
    それによって、症状をうまくコントロールしていくのです。

  • ・森田療法

    身体表現性障害の治療法を調べると、森田療法という言葉にたどり着くことがよくあります。
    これは、日本の精神科医森田正馬によって提唱、創始された精神療法で、患者さんの性格的傾向をもとに不安や恐怖の感情を排除せずあるがままの心の状態を得ようとする心理療法です。
    現在は投薬や入院によって、この療法が実施されているようです。

身体表現性障害は医者を変えないほうが良い

身体表現性障害の場合、一人の医者との信頼関係が大切になる場合があります。
というのも、これまでの経過の中で、何人もの医者に原因不明を申告されたり、検査や診断の結果わからないと言われ続けていますので、医者を変えること自体が不安になる場合があります。

身体表現性障害の治療法には
薬に頼らない方法があります

抗うつ剤などを用いて治療する場合が多い身体表現性障害。
しかし、薬に頼った治療には様々なリスクが伴います。
そこで、品川メンタルクリニックでは薬に頼らないストレス・うつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」というものをご提案いたします。

投薬治療の弊害

投薬治療は、いわゆる精神の変化に影響を与える薬を使います。
これには心の負担はもちろんのこと、めまい・眠気・頭痛・嘔吐・口渇・便秘など様々な身体的な不調を引き起こす副作用が存在します。
また、服薬期間中に改善が見られない場合の増量、もしくは他剤への切り替えの際にも心身への負担があります。
さらに、症状の改善が見られ投薬をやめる際にも、離脱症状という、様々な症状が出るという場合もあるのです。

光トポグラフィー検査

医師の問診のみでは見抜けなかった原因も品川メンタルクリニックでは光トポグラフィー検査と問診で原因に合った治療方針を的確にご提案します。
光トポグラフィー検査は、グラフデータ(波形)でうつ病かどうかが見た目で判断しやすい検査です。うつ病・双極性障害(躁うつ病)・統合失調症・健常というパターンで結果が分ります。もし、うつ病と診断を受けていて、実は双極性障害(躁うつ病)だった場合、治療方針は異なります。うつ病の治療法では双極性障害(躁うつ病)は改善されません。
まずは、身体表現性障害の原因でもある精神的ストレスになる原因をしっかりとここで突き止めます。

磁気刺激治療(TMS)

磁気刺激治療は磁気によって脳の活動を活発にする治療です。
うつ病と同様に身体表現性障害も脳の働きの低下によって引き起こされる場合もある症状ですので、この治療で効果が期待できます。
また、重症化することを防ぐのにも役に立ちます。
品川メンタルクリニックではこういった薬を使わない治療をご提案しておりますので、ぜひ、一度お問い合わせください。

■関連リンク

薬に頼らない、副作用の少ない新しい治療 
TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

身体症状が日常生活や職場生活に与える影響を最小限にし、たとえ症状があっても普段に近い生活を送れるようになるように一緒にサポートします。

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