ぐるぐる思考(反芻思考)~嫌な考えが止まらない~

「あの時、ああしておけば良かった」
「あの言い方で良かったのだろうか」
「私はなぜこんな性格なのだろう」

ネガティブな思考がぐるぐるといつまでも頭の中を巡り、くよくよと考え続ける──このような状態を、一般的には《ぐるぐる思考》、専門的には《反芻(はんすう)》や《反芻思考》といいます。
嫌なことを答えも出ないのにぐるぐると考え続ける反芻思考は、無意味どころか抑うつ気分を助長する望ましくない精神的習慣です。

この記事では、ぐるぐる思考(反芻思考)の原因と悪影響、そして対処方法について解説します。

ぐるぐる思考(反芻思考)とは

《ぐるぐる思考(反芻思考:ruminating thoughts)》とは、過去の出来事・体験についてネガティブな思考を繰り返し、くよくよと考え続ける傾向・思考習慣です。単に《反芻(はんすう:rumination)》、あるいは《抑うつ的反芻(depressive rumination)》とも呼ばれ、うつ病や不安障害などさまざまな精神疾患の症状であるとともに、それらを引き起こすリスク要因であると考えられています。
《米国心理学会(APA)》は、反芻を「他の精神活動を妨げるような、過剰で反復的な思考やテーマを含む強迫思考」と定義しています[1]

反芻と省察

反芻の要素、あるいは対照的な状態に《省察(せいさつ:reflection)》があります。
反芻は自分自身に関連するネガティブな情報を繰り返し考え、抑うつを強める非建設的な傾向・思考習慣ですが、省察は知的好奇心や自己探求心によって自分自身に注意を向けやすい傾向・思考習慣です。省察は抑うつと負の関係、もしくは無関係であると考えられています。
過去に閉じこもり、過去にとらわれ、そこから一歩も出ることのない反芻に対し、過去と向き合い、現在や未来に影響を与える省察は、より建設的な思考習慣です。
ただし、私たちが直面する全ての問題に答えがあるわけではありません。反芻と省察はどちらも深く自己の内面を思考するという共通部分を持っており、もともと適応的な省察に始まった思考が、問題解決に至れないことで不適応的な反芻にシフトするという可能性があります。

ぐるぐる思考(反芻思考)は受診が必要?

つらいことや苦しいことがあった夜、寝床でくよくよと考え続けてしまうのはよくあることです。これは誰もが体験するごく普通のことで特別なことではありません。過去・現在・未来について深く考えることは、問題を整理し、将来の計画を立てるための健全な方法です。その過程でネガティブな考えに至ること自体は疾患でもなんでもなく、私たちが未来の可能性やリスクに備えるための自然なことといえるでしょう。
しかし、際限なくこのような思考にとらわれたり、ことさらネガティブな側面ばかりに注目したりするような場合は、反芻思考に陥っている可能性があります。

反芻思考そのものは精神疾患ではありませんが、うつ病を始めとする精神疾患のよくある症状であり、また重症化の要因になり得るなど注意が必要です。過去を思い悩むことが、日常生活に悪影響(例えば眠れない、気分が落ち込むなど)を与えているような場合は、早めに医療機関を受診してください。

ぐるぐる思考(反芻思考)の原因

反芻思考を引き起こす可能性がある要因として、次のようなものが考えられます。

  • 完璧主義や神経症傾向などの性格的特徴
  • うつ病(などの精神疾患)
  • ストレス
  • 自尊心の低さ
  • トラウマ体験
  • 反芻が洞察をもたらすという信念(思い込み)

ぐるぐる思考(反芻思考)の悪影響

反芻思考のテーマは常に過去のことであり、過去とはもはやコントロール不可能なものです。反芻思考は、過去にとらわれ、現在を否定し、将来を絶望することにつながる非建設的な思考習慣です。
反芻思考をしている本人が一番よく分かっているように、自分がコントロールできないことについて延々と思い悩んでも、多くの場合、自責・罪悪感や恥辱につながるだけで、解決策や洞察を得ることには役立ちません。
これでは自分の気分を害するために、時間とエネルギーを浪費しているようなものです。
このように、反芻思考はストレス以外の何ものでもなく、不安感やうつ症状の増大、集中力・注意力の低下などをもたらす可能性があります。実際、反芻思考はうつ病をはじめとして、以下のような精神疾患の発症や悪化に関連しています。

  • うつ病
  • 全般性不安症
  • 強迫性障害
  • 恐怖症
  • PTSD
  • 摂食障害

ぐるぐる思考(反芻思考)を止めるための7つの対処法

反芻思考を止めるためには、まず、自分が反芻していることに気付く必要があります。そして反芻思考が望ましい習慣ではないことを認め、以下を試してみてください。

1.注意をそらす

反芻していると気づいた時は、自分の好きなものを見る、読む、体を動かすなど、今あなたを悩ませていること以外の何かに注意をそらしましょう。反芻していること以外を「考える」よりも、身体を使った「行動」の方が、注意をそらすのが簡単です。「考えないようにする」と、かえって考えてしまうものですから、「考えないようにする」のではなく、「別のことをする」のです。

2.運動に打ち込む

運動に集中するのも効果的です。
入院中の精神疾患患者を対象とした研究では、適度に激しい運動を行った結果、反芻思考をはじめとした様々な症状が改善しました[2]
なお、研究で行われた運動の内容は、ノルディックウォーキング、筋トレや体操、球技などをそれぞれ40~60分行うというものでした。

3.場所を変える

お気に入りの場所や落ち着ける場所に移動します。
公園でも、近所を散歩するのでも、例えば静かな隣の部屋に移動するだけでも構いません。

4.自然と触れ合う

2015年にスタンフォード大学が行った、自然環境と都市環境で90分間散歩するという調査では、自然環境での散歩は都市環境での散歩と比べて反芻思考の回数が減少するという結果が出ています[3]
また反芻思考の直接的な研究ではありませんが、2019年のミシガン大学の研究では、自然の中(ガーデニング、庭仕事、裏庭で静かに座っているだけでも)でわずか20分を過ごすだけでストレスホルモンレベルを大幅に下げ得ることが報告されています[4]

5.反芻思考の原因から遠ざかる

反芻思考の原因がはっきりと分かっている場合は、原因と距離を置くのも解決策の一つです。
自分がどういう時に反芻思考に陥っているのか、一度書き出してみましょう。
時間、場所や人物など、反芻思考に陥る特定のパターンがあるようなら、一時的にそれらの対象を遠ざけるのも一つの手段です。

6.マインドフルネス瞑想

私たちの心の動きを観察すると、現在よりも過去や未来のことについて考える時間の方が長いことが分かります。マインドフルネスとは「今現在の体験を、ありのまま受け入れる心のあり方」のことです。雑念を持たずリラックスした状態で、評価や判断からも切り離された状態で集中します。
このマインドフルネスの状態にもっていく手段のひとつがマインドフルネス瞑想です。
方法はシンプルで「姿勢を正して」「呼吸に集中する」というものです。安定した姿勢を取り、ゆっくりと呼吸し、その呼吸に意識を集中します。途中、集中が呼吸からそれると思いますが、そのことに気付くたびに呼吸に意識を戻すことを繰り返します。
基本的には継続的に行うことを前提にした習慣で、メンタルヘルスを中心に、さまざまな効果があるとされています。

7.自己否定をやめる

反芻している自分自身を否定しても苦痛を増大させるだけです。自分のしたこと(あるいはしなかったこと)を思い出して悔やんだところで、過去は変わりません。
過去を変えることはできませんが、過去への見方を変えることはできます。また、今この瞬間から新しい現在を始めることもできます。過去のあなたは、そのとき自分に許された選択肢の中で最善を尽くしたはずです。
あなたの未来のために、自己否定・自己卑下をやめることから始めましょう。

ぐるぐる思考(反芻思考)とうつ病

反芻思考をどうしても止められない場合は、うつ病などを発症してしまっている可能性があります。寝入りばなの反芻思考が原因で睡眠不足が続いているなど、生活に支障がでている場合は、早めに精神科・心療内科を受診することをお勧めします。
病気かどうか分からないまま、いきなり病院にかかることに抵抗がある場合は、まずはセルフチェックをお試しください。

うつ病は放っておけば治るというものではなく、時間が経過するにつれ、治療も長引く傾向があります。うつ病の治療は早期対処がとても重要です。

まとめ

《ぐるぐる思考(反芻思考》は、過去についてネガティブな思考を繰り返し、くよくよと考え続けてしまう傾向のことです。うつ病を始めとする精神疾患の症状であるとともに、重症化の要因でもあるなど、注意が必要な思考習慣です。
反芻してしまう原因としては、ストレスや自尊心の低さ、完璧主義などの他に、反芻が役に立つという誤った思い込みなどが考えられます。
ぐるぐる思考(反芻思考)をやめるためには、まず自分自身が反芻していることに気付き、それが役に立たないものであることを認めることから始まります。

  1. 注意をそらす
  2. 運動に打ち込む
  3. 場所を変える
  4. 自然と触れ合う
  5. 反芻思考の原因から遠ざかる
  6. マインドフルネス瞑想
  7. 自己否定をやめる

上のような方法を試してもうまくいかず、日常生活に支障をきたしているような場合は、早めの精神科・心療内科への受診をお勧めします。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニックの統括院長・本院院長兼務。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

関連する記事

  • 更新

精神科・心療内科情報トップへ