イライラするのはうつ病のせい? その原因と対処法
うつ病というと、元気がなくなり、動きが鈍く、何事にも無気力で、めそめそと暗い顔で落ち込んでいるイメージが強いと思いますが、うつ病患者の全員に同じ症状が現れるわけではありません。うつ病になると感情が制御できずに、イライラと怒りっぽく、攻撃的になる症状が現れる場合もあります。
イライラや怒りは、うつ病患者と周囲の不和や対立を誘発する要因となることも多い厄介な症状で、当事者の生活や人生を破壊しないためにも適切な対処が必要です。
この記事では、イライラの原因や予防・対処法、うつ病の症状としてのイライラや怒りについて解説します。
イライラするとは?
一般的に「イライラ」や「苛立ち(いらだち)」とは、自分の考え・思い・願望・感覚と、現実が一致していないときに生じる不快感をさします。イライラしているときは、普段は気にならないような小さなことにも敏感に反応するようになり、それらが怒りや興奮の原因になる可能性があります。イライラしやすい、興奮しやすい状態や反応を、専門的には《易怒性(いどせい)》や《易刺激性(いしげきせい)》といいます。
イライラはさまざまな形で現れますが、一般的な兆候としては以下のようなものがあります。
- 怒りっぽい、攻撃的、短気
- 気分のむら、情緒不安定
- 不機嫌
- フラストレーション(欲求不満)
- 興奮しやすい
- 刺激に過敏
- そわそわと落ち着かない
- 不安、焦燥感
- 衝動性
- 倦怠感、やる気がない
- 集中力の低下
怒りの矛先
イライラや怒りは、きっかけになった対象に向くとは限らず、無関係な周囲の人や物(八つ当たり)、自分自身に向くことがあります。
- 内向き:内側、つまり自分自身に向けられる苛立ちや怒りは、自己嫌悪や自己否定、否定的な思考や感情、自傷行為、社会的離脱(ひきこもり)などにつながります。自傷行為は、物理的に身体を傷つける以外に、拒食や暴飲暴食のような形をとることもあります。
- 外向き:外向きの苛立ちや怒りは、明白な形で現れます。叫ぶ、物を投げる、物を壊す、暴言を吐く、暴力を振るうなどの行動が含まれます。
- 受動的/間接的:不機嫌になる、無視をする、皮肉や悪口を言うなど、苛立ちや怒りの表現が間接的な場合もあります。
うつ病でイライラするのはなぜですか?
うつ病になると、元気がなくなり、やる気なく暗い顔で落ち込んでいるイメージが強いと思いますが、うつ病患者の全員に同じ症状が現れるわけではありません。うつ病になると感情を適切に制御することが困難になるため、イライラと怒りっぽく、攻撃的になることもよくあります。
イライラ感は、特に小児・青少年や高齢者ではよくみられる症状です。
イライラが強く焦燥感が目立つうつ病を《焦燥性うつ病》と呼ぶことがあります。
感情の制御ができないことから、人付き合いなどの刺激に圧倒されて興奮しやすくなり、イライラを引き起こすことがあります。さらに、自責感や自己批判の傾向が、不安や焦燥感を悪化させる可能性があります。つまり、外からの刺激にイライラするだけではなく、自分自身や自分の考え(内的な刺激)にイライラすることもあるということです。
場合によっては、イライラが激化して攻撃的になることもあります。この攻撃性は自分自身に向かうことも、周囲に向かうこともあります。
うつ病患者のイライラ・怒りの種類
うつ病患者が示すイライラ感や怒りには、以下のようなパターンがあります。
イライラ(苛立ち)
イライラしているときは、普段なら気にならないような小さな不快感にも敏感に反応するようになります。以前は我慢できていたことに声を荒げたり不機嫌になったりなど、ネガティブな反応を示さずにはいられなくなります。
苛立ちを感じている人は、次のような反応や行動をとることがあります。
- 自分や他人に対してすぐにイライラする
- 小さな問題にイライラする
- 口調が強くなり、厳しい発言をする
- ドアをバタンと勢いよく閉じたり、物を投げ捨てたりする
- そわそわと歩き回る、落ち着きなく身体を動かす
- 無視する
イライラ感は、はっきりしたトリガーや要因なしに生じることがあります。
敵意
イライラするだけではなく、怒鳴ったり、物に当たったりなど、周囲に敵対的な言動を示すことがあります。《敵意》はほとんどの場合、他人をターゲットにします。
- 厳しい皮肉をいう
- 物事がうまくいかないことで他人を責める
- いじわるしたり、怒りをぶつけたりする
- 疑り深くなる
怒り発作
突発的に激しい怒りにとらわれることもうつ病の特徴です。ほんの小さなきっかけで爆発的に怒り出し、周囲の人を驚かせることもあります。決して珍しい症状ではなく、うつ病患者の3~4割が《怒り発作》を示すという報告もあります[1]。怒り発作の特徴は次のようなものです。
- 怒り方が度を超す
- 状況に釣り合いが取れていないレベルで怒る
- 怒りが引いた後、罪悪感や後悔する気持ちを引き起こす
怒り発作中には、以下のような衝動にかられ、実行する場合もあります。
- 物を投げる、殴る、壊す
- 自分や他人を殴る、傷つける
- 怒鳴る、叫ぶ、罵倒する
怒り発作では、次のような身体的な症状も一緒に現れます。
- 心拍が速くなる
- 胸を締め付けられるような感覚
- 呼吸が浅くなる
- ふるえ、ふらつき、めまい
- 筋肉の緊張
- 発汗
ほとんどの人が、怒り発作後に強い罪悪感を抱く傾向を示します。
怒り発作を持つうつ病患者は、自殺を考える傾向が強い可能性があります[2]。
イライラするときは医療機関にかかるべきですか?
締め切り間際の電話や、隣の人の貧乏ゆすりにイライラするのは誰にでもあることです。取引先や上司の理不尽な要求や、いわれのない侮蔑や、所有物を台無しにされたときに怒りを感じるのも自然なことです。しかし、次のような場合は、医療機関で医師に相談してください。
- 取るに足りないことに激怒し、怒りを抑えるのが難しい
- 頻繁に怒りを感じる
- 破壊衝動に駆られる
- 怒ることで日常生活、人間関係、仕事などに悪影響を与えている
- 怒った後に後悔している
- 怒りの結果が法を犯すレベルである
イライラや怒りは、悲劇的な結果をまねくこともあります。あなたの人生を破壊する前に、医師にご相談ください。
イライラ感の原因いろいろ
イライラや怒りの原因はうつ病に限りません。うつ病の他にも以下のようなものがイライラを引き起こします。
- ストレス:私たちの身近には、常にストレスが存在しています。人間関係、経済的な心配、孤独感など、イライラにつながる生活上のストレスはたくさんありあります。
- トラウマ体験:生命や心身を脅かす深刻な体験は、イライラを引き起こすことがあります。
- 睡眠不足:睡眠の質や量が足りず、睡眠不足に陥っていると、イライラが引き起こされる可能性があります。
- 空腹:「お腹がすくと怒りっぽくなる」という体験は珍しいことではないでしょう。空腹で血糖値が下がることでストレスホルモンが放出され、イライラが引き起こされる場合があります。
- 刺激物:カフェイン、タバコ、違法薬物などの離脱症状でイライラすることがよくあります。
- 精神疾患:不安障害、双極性障害、物質使用障害(アルコール依存症など)、パーソナリティ障害、PTSD、月経前不快気分障害(PMDD)など、精神的な疾患の多くがイライラを引き起こす可能性があります。
- 身体的な疾患:甲状腺の問題、慢性的な痛みなど、イライラを引き起こす身体的な疾患もあります。
- 薬:薬の副作用や離脱症状でイライラすることがあります。
イライラ感への予防と対処法
イライラへの予防や対処法には、次のような方法があります。
トリガーを特定する
どのような問題や経験が、あなたを刺激するトリガーになっているのかを知りましょう。トリガーを特定することで、自分自身のイライラ感や怒りをうまく制御できるようになる可能性があります。
その場を離れる
イライラの対象から物理的に距離をとります。可能ならそのまま少し休憩を取りましょう。
深呼吸する
ストレスを感じているときには深呼吸することで、イライラが和らぎます。
質の良い睡眠を十分にとる
夜更かしなど、不規則な生活リズムは睡眠の質と量を下げ、イライラの原因になります。快適な睡眠には睡眠のリズムを毎日守ることが大切です。週末も含めて毎日同じ時間に眠り、毎日同じ時間に起きる習慣を身につけましょう。目覚めたらすぐに朝日を浴び、1日を開始しす。
栄養バランスの取れた食事をとる
1日3回、栄養バランスを考えたおいしい食事をとることは、健康な体の基礎となります。ながら食いや不規則な時間の食事は、健康にとってマイナスです。一日の食事の中でも朝食は特に重要です。炭水化物を中心とした朝食をしっかりと取り、エネルギーをしっかり補給しておきましょう。空腹はイライラの原因になります。
適度な運動をする
適度な運動は、ストレス予防や解消にもとても有効です。日中にしっかり活動しておくことで睡眠の質向上にもつながります。
デスクワークなど、ほとんど身体を動かさない人は、より一層意識して身体を動かすようにしましょう。運動する習慣がない人は、まずはウォーキングやサイクリングなど、穏やかなものから始め、継続することを目標にしてください。
ストレスを管理する
ストレスでパンクする前に、定期的にストレスを解消しましょう。ゆっくり入浴する、読書する、音楽を聴く、趣味を楽しむなどのリラックスできる時間を確保しましょう。自分のために時間を使うことは、あなたの心を充電してくれます。
誰かに相談する
信頼できる家族や友人に相談しましょう。必ずしもアドバイスをもらう必要はありません。ただ話を聞いてもらうだけでもスッキリ整理できることは少なくありません。
知っている人に打ち明けにくい内容の場合は、専門のカウンセラーや医師に相談する選択肢もあります。
メモに書き出す
イライラの原因をメモに書き出すだけでも、心が整理されることはよくあります。
うつ病の症状
うつ病には、イライラの他にもさまざまな症状があります。
- 気分が落ち込み、悲しみやむなしさを感じる
- 以前は楽しんでいた趣味や活動に興味がなくなる
- 食欲の変化・体重変動
- 不眠または過眠
- 不安や焦燥感(イライラ感)
- 疲れが取れず、やる気が出ない
- 自分には価値が無いと思う
- 思考力・集中力・決断力の低下
- 自殺や死について考える
このような症状がいくつも2週間以上続き、日常生活に支障が出ている場合はうつ病の可能性があります。目安の1つとして以下のセルフチェックもご活用ください。
うつ病は早期発見・早期治療が重要です。「うつ病なのかな?」と疑わしい場合は、セルフチェックの結果に関係なく精神科・心療内科にご相談ください。
まとめ
うつ病になると感情の制御が困難になるため、イライラと怒りっぽく、攻撃的になる症状が現れることがあります。敵意や怒り発作など、うつ病患者が周囲とトラブルをかかえる要因にもなる厄介な症状ですが、決して珍しいものではなく注意が必要です。
うつ病患者が示すイライラ感や怒りには《イライラ(苛立ち)》《敵意》《怒り発作》などがあります。
《イライラ》しているときは、普段なら気にならないような小さな不快感にも敏感に反応するようになります。《敵意》が生じると、怒鳴ったり、物に当たったりなど、周囲に敵対的な言動を示します。急激で激しい怒りにとらわれる《怒り発作》もうつ病の特徴です。怒り発作が終わった後、罪悪感や後悔する気持ちを引き起こします。
イライラの予防や対処には、生活習慣の見直しや、ストレスの場を離れる、誰かに相談するなどの方法があります。
イライラすることは誰にでもあることですが、取るに足りないことに激怒する、常に怒りを感じている、破壊衝動があるなど、日常生活に支障が出ている場合は、医療機関に相談してください。
品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。