「やる気が出ない」「全部めんどくさい」のはうつ病のせいかも?

「やる気が出ない」
「全部めんどくさい」
「何もしたくない……」

何十年と生きる中でそのように感じることが何日かあったとしても、恥じる必要はありません。年に数日やる気が出ないという日くらいは、誰にでもあることでしょう。
しかし、もし、毎日このように考え、「何もかも面倒だ」ということなら、うつ病などを患っている可能性があります。

この記事では、やる気の本質を探り、やる気が出ない原因や対処法について解説します。

「やる気がない」とは?

うつ病の代表的な症状の1つに「やる気が出ない」というものがあります。
「やる気」とは「進んで何かをしようという気持ちや意欲」のことを表す一般的な言葉で、「やる気がない」は、専門的には「意欲の欠如」「意欲の喪失」などと表現されます。
一般的に「やる気がない」という言葉は、いくつかの状態を含む、あるいは言い換えることができる精神的な状態を表します。

  • 意欲が無い、モチベーションがない
  • 怠け心、だるい
  • 先送りにする、先延ばしにする、後回しにする
  • 面倒くさい
  • 気力が無い、気力が湧かない、無気力

これらは同義であったり、微妙な違いがあったりしますが、私たちが「やる気がない」という感じを説明するときによく使われる表現です。

目的指向行動

ところで、「やる気」は《目的指向行動》に大きく関与する要素です。
《目的指向行動》とは何らかの目的を達成するための行動のことです。「水を飲むためにコップを用意する」というような単純な動作に始まり、「大学受験に合格するために勉強する」のように長期的な計画が必要な行動まで、いろいろな行動が含まれます。

目的指向行動には、動機づけ(やる気)と認知機能(思考)が大きく関与しています。

「やる気」の3つの要素

やる気(動機づけ)は、《結果の可変性》《成果の価値》《労力経費》の3つの要素から構成されると考えられています。

  • 結果の可変性:状況に介入し、結果を左右できるかどうかは、やる気にとって重要です。例えば、上位数名だけが合格できる試験があるとして、その数名が純粋に学力で決まる場合は頑張って勉強しようという気持ちになると思います。しかし、合否が寄付金で決まる場合は、勉強を頑張ろうという気持ちはしぼんでしまうことでしょう。「何もしても無駄だ」と思うような状況は、《結果の可変性》が極めて低いということで、やる気を失う十分な理由になります。
  • 成果の価値:《成果の価値》とは行動に対するメリットのことです。金銭的・物質的な価値に限らず、好奇心や知識欲を満たす、また達成感や充足感のような抽象的・精神的な価値も含まれます。例えば、何かのコンテストの1等の景品が、ブランド牛のシャトーブリアンステーキの場合と近所の河原の石の場合では、やる気に差が出るのは仕方のないことです。
  • 労力経費:《労力経費》は、望ましい成果に到達するために必要な労力・努力のことです。《労力経費》は《成果の価値》と大きく関係しています。目的達成のために必要なコスト(労力経費)が《成果の価値》を上回らない場合は、通常は行動が実行されません。例えば、人がわざわざ遠方まで出掛けるのは、そこに珍しいものや欲しいものがあったり、移動自体が楽しかったり、仕事で必要があったりなど、相応の理由(価値)があるのが普通です。

《目的指向行動》は、これら3つの要素が統合することで生まれます。
例えば、大学合格を目指して毎日長時間の勉強をする受験生を考えてみます。この受験生は、熱心に勉強すること(労力経費)が、合格につながると信じており(結果の可変性)、合格したい(成果の価値)ので、やる気をもって勉強を頑張れる(目標に動機づけられて行動できる)ということです。
そして、これら3つの要素は、これまでの学習をもとに推定されます。学習内容は一般化され、同じような状況を評価する際に流用されます。

例えば、Aさんが何カ月、何年にもわたって、職場で望ましい結果を得ることができなかったとします。その結果、Aさんは「職場では何をやってもうまくいかない」と思い込むようになり、仕事について深く考えることをしなくなる(仕事に関する思考の優先度が下がる)かもしれません。これは《結果の可変性》が低く見積もられた状態であり、次の仕事のときも「どうせうまくいかない」と仕事を流す(思考の優先度が下がる)ようになる可能性があります。

また、Bさんが仕事で高い結果を達成したとします。しかし、その結果を出すために、Bさんがとてつもない労力をかけていたり(《労力経費》が高い)、結果を会社から正当に評価されなかったり(《成果の価値》が低い)というような場合は、Bさんは仕事への情熱(やる気)を失い、仕事を流す(思考の優先度が下がる)ようになるかもしれません。

「やる気がない」のは怠けているから?

やる気なくだらだらしている人を見ると「怠けている」「だらけている」と思ってしまうかもしれません。
自分自身のことなら、「自分は怠け者だ」と、やる気が出ないことを恥じたり、疑問に思ったりするかもしれません。
誰しも、どうしてもやる気が出ない時というのはあるもので、その理由もさまざまです。年に数日やる気が出ない日があったとしても、さほど心配する必要はありません。
ただし、その状態が何週間も続くとなると話は別です。それはうつ病などの病気の可能性があります。

うつ病では、中核症状の1つである「喜びの喪失」が《成果の価値》を下げ、許容できる《労力経費》も下がり、結果として行動自体が減ります。また、うつ病でよくある「どうせうまくいかない」「何をやっても無駄だ」などの否定的な思い込みが《結果の可変性》を低く見積もらせるため、やはり行動が減る要因になります。
この状態は、周囲からするとやる気がなく、だらだらと何もしていない怠け者に見えるかもしれませんが、実際にはうつ病が作り出している症状です。

うつ病では「やる気がない」から「全てがめんどくさい」

うつ病では、やる気を失うことで「何もかも面倒だ」「何もしたくない」という精神状態になりがちです。
具体的には以下のような行動や傾向が見られます。

  • 朝ベッドから起きるのがつらい
  • 衛生面に気を使わなくなる
  • 以前は楽しかった趣味が楽しくない
  • 人と会うことをおっくうに感じる
  • 仕事や勉強のパフォーマンスが落ちる
  • 遅刻や締め切りを守れないことが増える
  • 毎日を消費しているだけに感じ、充実していない

うつ病の時にやる気を出す7つのヒント

うつ病患者がやる気を出して何かに取り組むというのは簡単なことではありません。意欲を取り戻すために最も重要なことは、きちんと治療することです。
しかし、治療を始めたからといってすぐにやる気が出るわけでもないでしょうし、良くなるまで気長に待てる状態とは限りません。
以下はうつ病のときにやる気を出すためのヒントです。
なお、このヒントはうつ病ではない人にも役に立つはずです。

1.達成可能な目標を設定する

計画してそれを実行するというのは、脳にとっては大変な労力です。対象が大きく複雑なものになればなおさらです。非現実的な目標は、うつ病でない人でもやる気を失いかねません。
何かを行う場合には、そのプロセスを小さな部品に分解しましょう。
例えば1冊の本を読む場合なら、「本を読む」ではなく「5ページ読む」「1セクションだけ読む」など、小さな中間目標を設定します。

2.起きて服を着替える

始めてしまえば、意外とうまくいくということもよくあります。
一日中ベッドの中でやる気が芽吹くのを待つのではなく、とりあえずベッドから起きだし、服を着替え、外の空気を吸いましょう。実際に行動することで、やる気を生み出せることもあります。

3.無理のないスケジュールを立てる

1日、1週、1ヶ月と、スケジュールを立てる時は過密にならないように余白を持たせましょう。やるべきことのチェックリストを作り、優先順位を決め、スケジューリングします。
全てが予定通りにコントロールできるとは限りませんが、事前に予定を確認しておくことで混乱が避けられる可能性があります。

4.運動する

うつ病患者を対象にした運動治療の研究によれば、運動は、うつ病患者のモチベーションと疲労(特に身体的疲労)を改善する可能性があります[1]。その内容は、薬物治療を続けながらウォーキング・ジョギング・トレッドミルでのランニングなどの有酸素運動を12週間続けるというものです。

5.自然の中を散歩する

自然の中で過ごすことがメンタルヘルスを改善するという報告はたくさんあります。
例えば、2019年のミシガン大学の研究では、20分間自然の中で過ごす(ガーデニング、庭仕事、裏庭で静かに座っているだけでも)だけでストレスホルモンレベルを大幅に下げ得ることが報告されています[2]。また、自然散策がメンタルヘルスを効果的に改善し、うつ病や不安に良い影響を与えることを示す解析報告もあります[3]

近くに緑地がある場合はそこを散歩しましょう。散歩できるような場所が無い場合も、意識的に自然を生活の中に取り込むようにしましょう。

6.自分へのご褒美を用意する

目標を達成したあとの適切なご褒美を用意します。
ご褒美は「10分休憩」「お茶を飲む」「猫とじゃれる」などのささやかなもので十分です。重要なのは、目標達成が楽しみになるようなご褒美を設定することです。

7.自分に優しくする

確かに、自分を追い込むことでやる気が出る人もいますし、それが成長につながることもあるかもしれません。しかし、うつ病の人が、そういう逆境で成長するタイプであるとは限りませんし、元がそうであっても、弱っているときはとてもそんな状況ではないでしょう。
プレッシャーが自分のためにならないことが分かっているなら、(少なくとも弱っているときは)可能な限りそういう状況を避けるのがよいかもしれません。

その他のやる気が出ない原因

やる気が出ない原因はうつ病だけではありません。
以下のようなものも、やる気が出ない原因になります。

  • 睡眠不足
  • 疲労
  • ストレス
  • 疾患:パーキンソン病・アルツハイマー病や脳卒中のようなさまざまな疾患でも、無気力は一般的な症状です。

いつ医療機関にかかるべきか?

やる気が出ない日が1日、2日あったからといって、あわてて医療機関にかかる必要はありません。
しかし、意欲の低下が何週間も続き、日常生活に支障をきたしているような場合は、医師に相談する必要があります。特に気分が落ち込む、イライラする、眠れない、食欲がないなどの症状が何週間も続くような場合は、うつ病にかかっている可能性があります。
いきなり医療機関にかかることに抵抗がある場合は、セルフチェックなども有用です。

うつ病は早期発見・早期治療が大切です。心配な場合は、セルフチェックの結果に関係なく医療機関にご相談ください。

まとめ

やる気を失うと、目的を持った行動が減少しやすく、だらだらしているように見えます。
やる気が起きないのは、うつ病によくある症状の一つです。実際にうつ病にかかってやる気が出ないときにやる気を出すためには、達成可能な中間目標を設定する、とりあえずベッドから出る、スケジュールに余裕を持たせる、運動する、などのいくつかのコツがあります。

やる気がない日が年に数日あったからといって医療機関にかかる必要はありませんが、意欲の低下、気分が落ち込む、眠れないなどの症状が何週間も続き、日常生活に支障をきたしているような場合は、うつ病にかかっている可能性がありますので医療機関にご相談ください。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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