老人性うつ(高齢者うつ)とは?認知症との違いや対処法

老人性うつ(高齢者うつ)認知症の違いを知ることは大切です
老人性うつ(高齢者うつ)認知症の違いを知ることは大切です

「最近、言動がおかしい」
「会話しているとき、ときどき支離滅裂なことを言い出す」

あなたは今、高齢になった大切な家族や親類、友人などの変化を心配しているのではないでしょうか。人は誰しも、歳を重ねるごとに認知機能が低下していくものです。それは自然のことであり、近年では認知症治療の進歩により、症状緩和も期待できるようになりました。しかし、もしその症状が認知症に似た症状の「老人性うつ(高齢者うつ)」であった場合、認知症治療とはまったく別のうつ病治療が必要になります。
高齢者のうつがどんなものか理解を深め、適切な治療の一歩に役立てていきましょう。

老人性うつとは

「老人性うつ」とは、老年期(65歳以上)の方がかかるうつ病のこと。以下のような症状が2週間以上、ほぼ毎日続いているとうつ病の可能性が高くなります。

  • 気分がひどく落ち込む
  • 何ごとにも興味や喜びがわかない
  • 食欲が出ない
  • 眠れない、眠りが浅い
  • 何も考えたくない、または理由もなく焦燥感にかられる
  • いつも体がだるい
  • 集中できない

症状が重くなると、これらの症状に加えて自殺願望が芽生えてくることもあります。
歳を重ねると反応や反射がゆるやかになったことで「うつっぽい」といわれるケースもありますが、それはあくまでで老化現象。うつ病は別ものです。
また、認知症の初期症状にうつ症状が認められる場合も確かにあります。しかし、「老人性うつ」と「認知症によるうつ症状」ではするべき検査や治療がまったく違います。自己判断せず、専門家に相談しましょう。
正しい治療を行うために大切なのは、患者さん本人の変化を感じ取っているご家族からの情報です。ささいな違和感もメモに残し、精神科や心療内科へ相談してみることをおすすめします。

ストレスやうつ症状について
ぜひご相談ください!

老人性うつ(高齢者うつ)の
発症のきっかけ

老人性うつの発症のきっかけは、大きくわけて2つあります。

1.重大なライフイベントと慢性的なストレス

大切な人との別れ(ペットロスも含む)、自分や身近な人がケガや病気をする、家族や友人との不仲、住み慣れた家を離れる(施設への入所、子どもとの同居など)、家計の深刻化、親の介護などの環境の変化は思っている以上のストレスになります。そのストレスが慢性的になるほど、感覚や感情、認知機能の低下が起こりやすくなるでしょう。
また、他者と自分の違いに慢性的なストレスを抱えやすい「病気や身体的に機能障害のある人」や、「両者の介護にあたっている人」もうつ病を発症しやすいため、注意が必要です。

2.周囲との信頼関係

人との信頼関係を必要としてこなかった人は老年期に孤立しやすく、うつ病にかかるリスクが高くなります。人と違う反応や行動を取ることで、周りを困らせてしまう「パーソナリティ傾向」は、老年期になるほど強く現れるためです。
また、伴侶や家族など近しい人と死別したとき、一時的にうつ状態になることは誰にでもあることですが、もし以下のような状態に陥っていたらうつ病を疑いましょう。

  • 強い抑うつ状態が6ヶ月以上続く
  • 「死んだ人と一緒になりたい」という強い願望を持つ
  • 大切な人の死を避けるために何かできたのではないか、という自己批判と強い罪悪感
  • 何ごとにも気持ちが動かない、感情が働かない
  • 亡くなった人の部屋や物などあらゆるものを元のままに残し、悲しみをとどめ続ける

この状態が長く続くほど精神的なダメージが大きくなり、治療も難しくなっていきます。違和感を覚えた場合は、できるだけ早く心療内科や精神科で相談しましょう。

ストレスやうつ症状について
ぜひご相談ください!

老人性うつと認知症の違い

認知症と間違われることがある高齢者のうつ病。その理由は、うつ症状にも「もの忘れの増加」など記憶障害が起こるためです。特に65〜75歳はもの忘れだと思っていた症状がうつ病であったケースが多く、認知症外来を受診する方の5人に1人はうつ病だといわれています。老人性うつ病と認知症の症状にはこのような違いがあります。

老人性うつ病 認知症
初期症状 身体的な不調、抑うつ症状など 怒りっぽくなるなどの性格の変化、
記憶障害など
症状の進行 家族との死別など「できごと」がきっかけで発症することが多い 特にきっかけはなく徐々に進行する
気分の落ち込み 強く、多い 弱く、少ない
もの忘れ 自覚があり、忘れやすいと訴える ほとんど自覚がなく、忘れていないフリをしやすい
妄想 病気だと思い込む「心気妄想」
罪を犯したと思い込む「罪業妄想」
お金がない、破産したと思い込む「貧困妄想」
誰かに自分のものを盗まれたと思い込む
「もの盗られ妄想」
日内変動 朝方に調子が悪く、夕方から良くなる 変わらない
老人性うつ病
初期症状 身体的な不調、抑うつ症状など
症状の進行 家族との死別など「できごと」がきっかけで
発症することが多い
気分の落ち込み 強く、多い
もの忘れ 自覚があり、忘れやすいと訴える
妄想 病気だと思い込む「心気妄想」
罪を犯したと思い込む「罪業妄想」
お金がない、破産したと思い込む「貧困妄想」
日内変動 朝方に調子が悪く、夕方から良くなる
認知症
初期症状 怒りっぽくなるなどの性格の変化、記憶障害など
症状の進行 特にきっかけはなく徐々に進行する
気分の落ち込み 弱く、少ない
もの忘れ ほとんど自覚がなく、忘れていないフリをしやすい
妄想 誰かに自分のものを盗まれたと思い込む
「もの盗られ妄想」
日内変動 変わらない

老人性うつ病と認知症の症状は共通点が多く、専門家にとっても見極めるのは簡単ではありません。また、認知症や脳卒中、パーキンソン病とうつ病を併発している場合や、常服している薬が抑うつを引き起こしている可能性も考えられます。ご自身やご家族だけで判断せず、医師に相談しましょう。

ストレスやうつ症状について
ぜひご相談ください!

老人性うつの治療と予防

品川メンタルクリニックでは、うつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」を導入しています。光トポグラフィー検査は、うつ病・双極性障害(躁うつ病)・統合失調症・健常の4つのパターンから結果をグラフデータで現します。
厚生労働省認可の検査であり、医師の問診と検査結果を併せて、より的確な診断が可能になりました。

老人性うつの治療

うつ病の治療は、一般的に「精神療法」「薬物療法」「環境調整」が行われます。

・精神療法
「頑張れ」などと励ますことは、病気を悪化させるので注意が必要です。具体的な接し方は慎重になる必要があります。病状や期間、性格によっても異なるため、心療内科や精神科の専門医に相談して決めましょう。うつ状態が回復してきたら、徐々に人と話したり、社会に触れたりしながら、精神的な刺激を与えていきます。家族だけで対応できない場合は、デイサービスなどを利用するのも良いでしょう。
・薬物療法
抗うつ剤などを使用するのが基本です。ただし、老人性うつの場合、抗うつ剤の中には、「血圧を上げる」「尿が出にくくなる」などの副作用があるため、服用には注意が必要です。必ず医師に判断してもらうようにしましょう。
・環境調整
老人性うつの患者さんが元気を取り戻せるような環境を整えたり、新しい引っ越し先でくつろげるようにしてあげたり工夫することが効果的です。
環境調整には家族のサポートが必須ですが、症状が悪化している場合は、必要に応じて病院での入院も検討しましょう。
老人性うつは、休ませすぎは避ける必要があります。高齢者は気力や筋力が衰えやすいため、体を動かさないと、認知症になったり寝たきりになったりすることがあるからです。
ゆっくり休みながらも、心身に適度な刺激を与えられるような機会を与えてあげることが 重要です。

上記の他に、脳に電流を流す「電気けんれん療法」や光を照射する「光線療法」なども効果の高い治療として行われてきました。しかし、高齢者はいくつもの病気を抱えている可能性が高く、必ずしもすべての治療が適用できるというわけではありません。
近年ではうつ病治療も大きく進歩し、「磁気刺激治療(TMS)」のような、身体への負担が少ない治療法もあります。うつ病治療の選択肢が広がり、ご自身に適した治療法を選択していきましょう。

老人性うつの予防

高齢者のうつ病予防で一番大切なのでは、認知症予防と同じように「社会とのつながりを絶やさないこと」。人と積極的に会話したり、新しいことにチャレンジしようと思ったりするなど、前向きな気持ちを持つことが重要です。
特に定年退職後は、何か新しい仕事を始めたり、趣味や習い事に通ったりすると良いでしょう。もし、自発的にそういった行動を取らない場合は、社会や人との関わりを絶やさないように、家族や周囲の人たちが気にかけてあげることです。

また、「栄養バランスのよい食事」を心がけることが大切です。
老人性うつを予防するためにも、脳の動きを活発にするビタミンやミネラル、脂質やたんぱく質といった栄養素もバランス良く摂取することが重要です。同居している家族がいる場合は、肉や魚、野菜、豆、海藻といったさまざまな食材を食べてもらうよう、食事メニューを工夫しましょう。一人暮らしをしている場合は、宅配サービスを利用するという方法もあります。

「適度に体を動かすこと」も予防に繋がります。
うつ病は、精神を安定させる働きがある神経伝達物質「セロトニン」と関係が深いといわれています。太陽光を浴びたり、運動をしたりすると、セロトニンの分泌を促すことができるので、屋外の散歩や簡単な体操などを日常生活に取り入れ、適度に体を動かすようにしましょう。家族や周囲の人がサポートしてあげると安心です。

老化現象とうつ症状は似通っているため、高齢になった自分や家族の不調は、歳のせいと思いがちです。しかし、周囲の人が感じる違和感には必ず何らかのシグナルが隠されていますの。周囲の人が「今までとは様子が違う」と気付いたら、早めに医療機関へ相談し、ご本人が病気や治療を受け入れられるよう、環境を整えましょう。

ストレスやうつ症状について
ぜひご相談ください!

身近に心配な方がいる人へ

身近に心配な方がいる人へ
身近に心配な方がいる人へ

生活のいたるところにうつ病のサインは現れます。ご家族にこのような違和感を覚えた場合は、まずはよく観察し、うつ病の可能性も考えましょう。

  • 口数が少なくなる
  • 明け方や休日明けに調子が悪そうで ある
  • 遅刻、早退、欠勤(欠席)が増える
  • 好きなことに興味を示さない
  • 食欲がない
  • 急にずぼらになったように見える
  • 体のだるさを訴える

また、そうした症状を感じた場合、症状を悪化させないため、ご本人への対応の仕方にも注意が必要です。

老人性うつにかかっている人に対する対応方法

  • 心配しすぎない
  • 励まさない
  • 原因を追求しすぎない(悪者扱いをしない)
  • 重大な決定は先延ばしにする
  • ゆっくり休ませる
  • 時には距離を置いて見守る

最近は世間からのうつ病への理解が深まってきたとはいえ、いざ精神科や心療内科を受診となれば戸惑うのも無理はありません。通院を勧めるときは、ただ「治療の必要があるから病院に連れていく」のではなく、「症状を緩和させるさまざまな解決法がある中で、心療内科や精神科の受診も選択肢にある」ということをご本人と話し合うことが大切です。
また、ご本人のうつ病に対する誤解や偏見が強いときもあります。うつ病は誰でもかかる可能性のあるよくある病気で、うつ病から回復することができるということを伝えて理解を促しましょう。

心身に負担の少ないうつ治療

うつ病治療の選択肢は、抗うつ薬だけではありません。高齢者は生活習慣病の薬など他にも薬を服用しているケースが多く、若い世代より体力にも不安があり、心身的負担も相まって薬物療法を受けにくい場合があります。そうしたとき、薬を使わない磁気刺激治療(TMS)などを取り入れることで、心身に負担の少ない治療が実現できます。

磁気刺激治療(TMS)

うつ病の人は「背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)」という脳の部位の血流が悪くなっている傾向があり、磁気刺激治療(TMS)はその悪い部分を磁気で刺激し、脳を正常に働かせていく治療です。

うつ病治療の主流である薬物療法は、副作用が生じる可能性があるだけでなく、薬の効果で「元気になった」と勘違いして治療をやめてしまう人も少なくありません。うつ病の根本的な改善には、医師の判断による継続的な治療が必要です。
磁気刺激治療(TMS)は、継続治療という点においても続けやすいのがメリットといえます。入院の必要がなく、副作用もほとんどなく、治療も約1ヶ月半~6ヶ月という短い治療期間で回復が見込めます。一定期間治療の継続は必要ですが、他のうつ病治療と比べれば、比較的短期間でうつ病からの回復が期待できます。

短期間の治療が可能です!
薬に頼らない新たなうつ病治療があります!

光トポグラフィー検査

品川メンタルクリニックでは、心身に負担のない厚生労働省認可の光トポグラフィー検査を導入しています。
うつ病は脳の病気と考えられており、うつ病の方の多くが脳の血流が悪い傾向にあることがわかっています。そこで専用の機器を用いて脳の血流量を数値でグラフ化することで、より的確なうつ病の診断を目指すのがこの検査です。
光トポグラフィー検査では、人体に安全な近赤外光で頭部の血流を測定し、健常、うつ病、双極性障害(躁うつ病)、統合失調症の4つのパターンをそれぞれグラフデータで判別していきます。
1回の検査全体の所要時間は約15分と短く、検査結果も当日にお渡しが可能です。検査結果と医師との問診と合わせて状態を分析していきますので、精度の高い診断が行えます。

状態を的確に知ることが大切です!
うつ病かどうかをグラフデータで診断サポート!

【参考サイト】

初村 英逸

監修

初村 英逸(はつむら ひではや)

2009年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック梅田院院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

精神科・心療内科情報トップへ