うつ病の代表的な治療法

うつ病は活発に研究されている精神疾患のひとつで、近年では、うつ病患者の脳に機能異常が生じていることが分かってきています。治療方法も盛んに研究され進歩しており、代表的な治療法に《休養》《環境調整》《薬物治療》《精神療法》《電気けいれん療法(ECT)》《経頭蓋磁気刺激治療(TMS治療)》などがあります。それぞれ一長一短あり「この治療で万事オーケイ」というものではなく、症状や状況に合わせて、その人に合った治療が行われる必要があります。

この記事では、うつ病の代表的な治療方法について解説します。

うつ病は脳の機能異常

《うつ病》は完全には解明されていませんが、近年の研究では、うつ病患者の脳に機能異常があることが明らかになってきています。さまざまな要因が複雑に絡み合うことで脳が機能異常に陥り、うつ病を発症していると考えられています。

うつ病の治療法

うつ病に限った話ではありませんが、一人ひとりの病態は異なります。当然、治療法も一様ではありません。同じ薬を使っても、効果にも副作用にも個人差があります。

現在、うつ病の治療法は世界中で盛んに研究され、たくさんの方法が提唱されています。
代表的な治療法としては、ストレスを低減、あるいは隔離する《休養》《環境調整》、神経伝達物質(セロトニン・ドーパミンなど)の濃度を調整する《薬物療法》、心理面に介入し問題を解消する《精神療法・心理療法》、脳神経を直接的に刺激する《電気けいれん療法(ECT)》《経頭蓋磁気刺激治療(TMS治療)》などがあります。

どのような治療法にもメリットやデメリットがありますから、ライフステージや重症度、差し迫ったリスクなどを十分に考慮した上で治療法を検討する必要があります。
症状や状況に合わせて、複数の治療法を適切に組み合わせることも重要です。

休養・環境調整

うつ病治療において、休養や環境調整はとても大切なことです。ストレスに満ちた環境では心も休まらず、うつ病の治療どころではありません。《休養》はとにかく休むこと、《環境調整》はストレスフルな環境からストレスの少ない環境に修正することで、つまるところはどちらもストレス対策です。

例えば、勤務に関することであれば、配置転換や仕事量の削減、時短勤務などが環境調整にあたります。再発防止の観点から、元の職場に復帰せずに転職する方が良い場合もあります。
また、ストレスの大きな環境からの一時的な避難(休職・休学・入院など)は、心身を休め、悪化を防ぐ助けになります。

なお、休養とはあくまでストレスを受けないための“心の”休養のことであり、身体的な休養が必須ということではありません。つまり、休職や休学が常に正解とは限りません。症状や状況・環境によっては、社会から(一時的にでも)断絶してしまうよりも、(改善後のことを考えて)通勤・通学しながら治療したほうが良い場合もあります。自宅では落ち着いて休養が取れない場合は、軽症でも入院するほうが良い場合もあります。

重要なのは、発症前よりもストレスが小さな環境に身を置くことです。さらに、一日の中でリラックスできる時間を確保するなど、意識的に休息をとるようにしましょう。

薬物療法

薬物療法は《抗うつ薬》を中心とした治療法で、現在のうつ病治療の主流です。薬物療法の基本は、十分な量の抗うつ薬を、十分な期間服用することです。
一方で、副作用や服薬中断時の症状に悩まされる患者が少なくないことも事実です。症状が改善した後も、薬を中止すると中断症状(離脱症状)が出たり、うつ病が再発したりする可能性が高いため、2~3年は服薬を維持することが望ましいとされており、治療期間は長くなりがちです。
一般に、3割くらいの方は最初の抗うつ薬で効果を確認できます。これらの方々は、最初の2~3週間で効果を実感でき、およそ3ヶ月までに寛解(症状がほぼなくなった状態のこと)に至るといわれています。逆に3分の1の方は4種類以上試しても寛解できないという報告もあります。

精神療法・心理療法

精神療法・心理療法ともに“psychotherapy”の訳語で基本的に同じものです。主に心理学的介入によって、患者個人が抱える問題の軽減・解消を目指す治療法を指し、他の治療法と組み合わせて用いられることがよくあります。
体系化された専門的技法に限らず、支持的・共感的な対応や、状況に沿った臨機応変な対応も、精神療法として患者が改善する助けとなります。
うつ病治療に用いられる精神療法はいろいろとありますが、代表的なものとして3つ紹介します。

  • 心理教育:一般に疾患やその治療に対して、その意味や意図・必要性を理解し納得することで、治療はより円滑で有用なものになります。《心理教育》は、患者や家族に対し、疾患についての知識や情報を共有することです。うつ病やその治療、対処方法などについて知ることは、治療効果を高め、再発防止にも役立ちます。
  • 認知行動療法(CBT):うつ病患者には、低い自尊心や過剰な責任感などのうつ病になりやすい思考パターンがあることが知られています。《認知行動療法》は、人の心理面に働きかけることで、これらの否定的な思考パターンを修正し、状態の改善を図る精神療法です。
  • 対人関係療法(IPT):うつ病が対人関係の中で発症することから、配偶者や恋人のような重要他者との現在の関係に注目し、問題を理解し解決を図ることで、状態を改善しようという精神療法です。

電気けいれん療法(ECT)

《電気けいれん療法(ECT)》は、頭部への通電により人為的にけいれん発作を引き起こすことで精神症状の改善を図る治療法です。重度のうつ病や統合失調症などに高い治療効果をもつことが知られています。欧米では全身麻酔薬と筋弛緩剤を使用することで安全性を高めた《修正型電気けいれん療法(m-ECT)》がすでに標準化されており、《ECT》といえばこの《m-ECT》のことです。日本でも現在は《m-ECT》が主流です。

ECTの代表的な副作用に記憶障害があります。また、(筋弛緩剤を使っていても)歯を食いしばるため、歯科的なリスクがあります。薬の調整・絶飲食(全身麻酔に伴い、嘔吐による窒息などを回避するため)や入院が必要など、実施のハードルはかなり高いといえるでしょう。
実際、うつ病への適応も非常に限定されており、主に以下の場合に選択されます。

  • 自殺や拒食などの生命の危機がある
  • 薬物治療が効かない重症患者

ECTは再発率が高く、改善後の1年間で約半数が再発します。

経頭蓋磁気刺激治療(TMS治療)

《経頭蓋磁気刺激治療(TMS治療)》とは、磁気による誘導電流で脳の特定部位を刺激し、うつ症状の改善を図る治療法です。
副作用がほとんど無いことが大きな特徴で、麻酔なども不要なため、日常生活の延長線上での通院治療が可能です。その他の特徴としては「治療期間が短い」「再発率が低い」ことがあげられます。
日本国内ではあまり普及していないため治療機会が限られることがデメリットです。我が国では2019年6月から保険診療が適用開始されましたが、保険診療の適用条件が厳しく制限されているため、国内では自由診療による治療が主流です(当院も自由診療です)。

うつ病は早期発見・早期治療が大切です

うつ病は、症状が軽いうちに治療を開始した方が回復も早いといわれています。治療せずに放っておくと、重症化や長期化のリスクがあります。うつ病の可能性があるにも関わらず、まだ医療機関にかかっていない場合は、早急に受診してください。
気分が落ち込む、趣味が楽しく感じない、夜中に目覚める、食欲が無い、などの症状が2週間以上続いている場合は、うつ病の可能性があります。
セルフチェックもありますので、「うつ病なのかな?」と心配な方はご利用ください。

まとめ

《うつ病》は完全には解明されていませんが、うつ病の治療法は世界中で盛んに研究され、たくさんの方法が提唱されています。
代表的な治療法には以下のようなものがあります。

  • ストレスを低減、あるいは隔離する《休養》《環境調整》
  • 神経伝達物質の濃度を調整する《薬物療法》
  • 心理面に介入し問題を解消する《精神療法・心理療法》
  • 脳神経を直接的に刺激する《電気けいれん療法(ECT)》《経頭蓋磁気刺激治療(TMS治療)》

うつ病は、治療せずに放置していると重症化や慢性化につながる恐れがあります。うつ病の可能性がある場合は、できるだけ早期に医療機関を受診してください。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニックの統括院長・本院院長兼務。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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