うつ病の治療方法や期間・回復までの流れ

うつ病の治療方法や期間・回復までの流れ

うつ病の症状

うつ病の初期症状では、気分の落ち込みや意欲の低下、 強い不安感、イライラなどの精神的な症状を感じやすくなります。
そのほかに、睡眠障害や食欲不振、体のだるさなどの身体的な症状も初期段階で自覚しやすいのも特徴です。
女性は、月経前症候群(PMS)や妊娠などホルモンの影響による症状にも似ているため見落としがちですが、2週間以上症状が続く場合はうつ病初期症状の可能性も否定できません。

今回は、そんなうつ病の治療方法や治療期間、回復までの流れについてご説明します。

うつ病治療の4本柱

うつ病は「脳の病気」です。
一度発症すると、時間が経つほど症状が重くなっていく傾向があります。
重症になるほど回復が難しくなる傾向もあるため、できるだけ早く治療を開始することが早期回復のカギです。
ここでは、そんなうつ病をしっかり治していくために大切な4つの柱、「休養」「環境調整」「薬物治療」「精神療法」についてお話します。

休養・環境調整

4本柱のうち「休養」と「環境調節」は、うつ病治療の基盤です。
うつ病は、強いストレスが引き金となって発症するといわれており、原因となったストレスと距離を置き、しっかり休むことが治療の第一歩となります。

しかし、うつ病にかかりやすい人は真面目で責任感が強い傾向にあり、その特性が治療の妨げとなる場合もあります。
例えば、治療がはじまって「のんびり仕事をしましょう」といわれても、職場にいれば頑張ってしまうでしょう。
「今までがんばりすぎていたようなので、家事は家族に分担してもらい少し休んでください」といわれても、家にいれば「自分がやらなければ」と考えてしまうのです。

ですから、休養を取るためには、少し強引にでも「やらなくていい環境」または「やれない環境」を整えることも必要です。
周囲にも協力をあおぎ、「時短勤務や休職をする=物理的に仕事ができない時間をつくる」、「旅行に行く、一人の時間を持つ=誰からも頼みごとをされない、物理的に家族の世話はできない」といった環境をつくりましょう。

また、睡眠障害や食欲不振を訴える人も多くいますが、「質のいい睡眠」と「バランスのいい食事」は心と体の健康を取り戻すための必須要素。睡眠や食事への不安があれば、早めに医師へ相談しましょう。

休養と環境調節は、一度治ったうつ病を再発させないための環境づくりでもあります。
うつ病を発症させてしまった環境を見直し、心と体にやさしい暮らしをしていきましょう。

薬物治療

薬物治療は、うつ病治療における代表的な治療法です。
治療をスタートした直後は、数種類の薬を飲み比べながら、効果や副作用を確認していきます。
現在用いられている抗うつ薬は「新規抗うつ薬」とも呼ばれており、副作用が強かった昔の薬に比べて副作用が少ないといわれています。
うつ病の治療薬は即効性のある薬ではなく、2週間~1カ月程度で効果が感じられるようになる傾向があります。
「効かないから薬をやめる」などの早まった行動はせず、主治医の指示に従って服薬を続けましょう。

精神療法

うつ病の治療では、ストレスへの対処法を学ぶことも大切です。
たとえ症状が治まっても、また同じ環境、同じ考えで生活していくと、うつ病の再発リスクが高まってしまうためです。
自分の良い状態がどんな状態か知り、その状態を維持するために取り入れていくのが「精神療法」です。
薬物療法と合わせて行うことで、より高い治療効果が期待できますが、すべての人に必ず必要というわけではありません。医師の指示に従って取り入れていきましょう。
うつ病治療では、主に2つの精神療法を用いています。

【認知行動療法】

物事に対する捉え方や考え方のクセを改善する方法です。
誰しもストレスを感じれば悲観的になってしまうものです。
しかし性格などによってその後の対処法が違い、うつ病になってしまうほどストレスを感じる人もいれば、あっさり切り替えていける人もいます。
そんな、問題解決できない心の状態に追い込まれていく「思考回路」にアプローチし、ストレスに対応できる心の状態をつくっていくのが認知行動療法です。

【対人関係療法】

社会生活において、ストレスの大きな原因となっているのは対人関係。
うつ病を発症するほど、強いストレスとなっている対人関係の問題を解消することで、ストレスを軽減させる目的を持つのが対人関係療法です。
対人関係が改善されていくと、周囲に相談しやすくなったり状況を理解してもらいやすくなったりと、うつ病の回復に向けたサポートも期待できます。

その他のうつ病治療

うつ病の治療には、前述した療法のほかにもさまざまな治療法があります。
どれか一つの治療法だけを進めるのではなく、複合的に行っていくことで、より回復への手ごたえを感じやすくなるでしょう。
それぞれの治療法について詳しくご説明します。

食事・運動療法

最近の研究では、食生活や栄養とうつ病に深い関係があることがわかってきました。
うつ病の方は、ビタミンB群や葉酸、トリプトファン、鉄分などの栄養が不足しているといわれています。
栄養バランスを整えることで、うつ病の根本的な治療にアプローチするのが食事療法です。
運動療法とは、心臓に負担にならない程度の有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど)を行う治療法のこと。
過度な運動はストレスになることもありますが、軽い運動ならリフレッシュできるだけでなく、血流がよくなって睡眠の質が向上するなどうつ病治療の助けとなる働きが期待できます。

経頭蓋磁気刺激治療法(TMS)

当院でも行っている経頭蓋磁気刺激治療法(TMS)とは、頭部に磁気刺激をあてることで脳の働きを正常に戻し、うつ病を改善していく治療法です。
副作用がほぼなく、早期の改善が期待できます。
治療にあたって入院なども必要なく、通院しながら治療を受けられる点もメリットでしょう。
定期的な治療を行うことで、再発を予防する予防法としても用いられています。

電気けいれん療法(ECT)

電気けいれん療法(ECT)とは、脳に数秒間の電気刺激を与える治療法です。
重度のうつ病や双極性障害、深刻な焦燥感、自殺の危険性がある場合、副作用などの理由で薬物治療が難しい場合に用いられます。
ただし、全身麻酔と筋肉けいれんを抑える薬を使用するため、誰にでも受けられる治療法ではなく、治療にあたっては入院が必要となります。
また、記憶障害をはじめ、さまざまな副作用を伴う方法でもあります。
リスクへの理解を深め治療に臨みましょう。

高照度光療法

高照度光療法とは、高照度光器具を用いた非常に明るい光を1日1〜2時間程度照射する治療法です。
睡眠リズム障害、時差ボケ、季節性感情障害(冬季うつ病)の治療で用いられます。
私たちは朝日光を浴びることで、体内時計を正常に保っています。
その特性を利用し、朝5,000~10,000ルクスの光を30分~1時間浴びることで、身体の機能を正常化させていくのが光療法のメカニズムです。

うつ病の代表的な治療薬と効果

うつ病の代表的な治療薬は、「抗うつ薬」「抗不安薬」「睡眠薬」の3つです。
ただし、うつ病の薬には特効薬や万能薬は存在しません。
医師としっかり話をし、服用の際の注意点や副作用等について、うつ病の方自身がよく理解して飲み始めることが大切です。
それぞれの効果について、詳しくみていきましょう。

抗うつ薬

抗うつ薬は、抑うつ気分や不安感・焦燥感を解消させ、意欲や物事に対しての好奇心を刺激する働きを持ちます。
薬の種類はいくつかあり、それぞれに脳に含まれる神経伝達物質の中の「セロトニン」と「ノルアドレナリン」に対して作用するようつくられています。
どの薬が優れているというものではなく、人によって効果が異なるため、医師の指示に従って慎重に服用していきましょう。

【SSRI】
セロトニンに強く働きかける薬です。
服用後の副作用は少ないものの、吐き気を感じる場合も。服薬には慣れが必要かもしれません。
【SNRI】
セロトニン、ノルアドレナリンの両方に働きかけます。
SSRIよりさらに副作用が少ないですが、のどの渇きが治まらなかったり、稀ですが排尿時に排尿のしづらさを感じたりする場合があります。
【NaSSA】
ノルアドレナリンに強く働きかけます。
他の薬と比べて即効性がありますが、強い眠気におそわれやすく、日中の行動に制限がかかる傾向があります。

抗不安薬

抗不安薬は、その名と通り不安を静める作用を持つ薬です。
日常生活に支障をきたすほどの強い不安感・焦燥感・緊張感がある場合に処方されます。
ただし、脳の活動をスローダウンさせる薬のため、日中に強い眠気などの副作用が出る可能性があります。
また、依存性も高いため、服用には十分な注意が必要です。

睡眠薬

睡眠薬は、「寝つきが悪い」「眠れない」「眠りが浅く何度も目が覚めてしまう」などの場合に処方される薬です。
すぐに不眠解消を感じられますが、突然やめると服用前より不眠が強くなってしまう可能性がありますので、必ず医師と相談してからやめるようにしましょう。

うつ病の治療期間と
回復までの流れ

うつ病の治療期間と回復までの流れ

うつ病の治療は、「急性期」「回復期」「再発予防期」という3つの段階に分けて進められていきます。
それぞれの期間は人によって異なるため一概に当てはめることはできませんが、ここではよく見られる経過パターンと目安となる期間をご紹介します。

急性期

急性期は、うつ病と診断されてから約3か月ころまでのことを指すことが多いです。
これは十分な休息と薬などによる治療を行うことで、1~3か月ほどで回復傾向が見られるため。
人によって半年ほどかかるケースもありますが、目安より遅いからといって焦る必要はありません。
人によって治療環境も違えば、どんな薬にどれほどの反応があるかなどの体質も違います。
そもそも抗うつ薬は即効性ではありませんので、ゆっくりと効果が現れてくるものなのです。

急性期で最も大切なのは、どう治療するかより、いかに心身の休息を取るかです。
医師の指導のもと、できるだけストレスの原因から離れた暮らしをするよう心がけましょう。
これだけで薬の治療をせずとも、症状の緩和が見られるケースもあります。

回復期

診断から順調に治療が進めば4~6か月ほどの期間を回復期と呼びます。
このころは、調子の良い日と悪い日を行き来しながら、一進一退で治療が進んでいきます。
気分の良い日が続くと「もう治ったのではないか」とうれしくなりますが、そんなときこそ要注意。
自己判断で薬の服用をやめたり、治療に行かなくなってしまったりすると、せっかく治りかけていた症状が悪化してしまう危険性が高まります。

また、この時期になると体調がよくなってくることから、仕事に復帰したいと考える人も多くいます。
しかし、この段階では時期尚早です。この時期に無理をしてしまうと、以前よりも症状が悪くなってしまったというケースも少なくありません。
こうなれば当然、回復までに必要な時間も以前より長くなってしまいます。

この時期は元の生活に戻すことを考えるのではなく、日中の行動を徐々に増やして、「生活リズムを整える」ことに努めましょう。
その上で、医師と再発防止について話し合いながら社会復帰後のイメージを明確にしていくのが、この時期に必要なことです。

再発予防期

治療を始めて1~2年の期間を再発予防期といいます。

このころになると無事に社会復帰を果たしている方も増えますが、まだまだ油断できる時期ではありません。
うつ病は再発しやすい傾向があり、一見完全に回復したように見えても、1~2年は薬物療法を続けて調子のいい状態を維持させる必要があります。
服用を突然やめてしまうと、めまいやふらつき、嘔吐、倦怠感などに悩まされる可能性もあるので、飲み忘れなどにも注意しましょう。

また、家族や友人など周囲の人に、再発の兆しがあった場合は教えてほしいと協力をあおいでおくことも大切です。
再発の症状は、気分の落ち込みやイライラ感、睡眠障害などうつ病の初期症状と同じです。
自分では気づけない再発のサインが出ている可能性もありますので、信頼できる相手に協力をお願いしておきましょう。

治りにくい方について

人によっては、治療をしてもなかなか改善が見られなかったり、いったん症状がよくなってもすぐに再発してしまったりするケースがあります。
これは「治療抵抗性うつ病」と呼ばれているもので、抗うつ薬を適切な期間きちんと服用してもうつ症状がよくならないうつ病のことです。
治療抵抗性うつ病の原因は定かではありませんが、今日までに抗うつ薬に抗精神病薬を組み合わせた治療で改善が見られています。

休養中の過ごし方や注意点

休養中は、仕事や家事から離れた過ごし方をすることが重要です。
思い切って長期の休職を取る、家族でバカンスに行く、必要性があれば入院するなど、日常の雑務から完全に解放されることが必要です。
うつ病は責任感の強い人がなりやすいといわれていますが、その責任感が心身を疲弊させ、うつ病を発症させてしまいました。
ストレスの原因と物理的に距離を取ることが、生活リズムの見直しとなり、うつ病の根本的な回復へとつながっていきます。

日常生活で気を付けること

うつ病の予防、早期回復、再発予防などすべてにおいて大切なのは、心地よい日常生活です。
無理をしない程度に以下のことを心がけ、気持ちのいい毎日を送りましょう。

  • 十分な睡眠を取る
  • 自分の性格や考え方を知る
  • 自分なりのリフレッシュ方法を知る
  • 規則正しい体のリズムをつくる
  • 栄養バランスのいい食事をする
  • アルコールを控える
  • 適度な運動を心がける
  • 悩みは誰かに話す

何から始めればいいかわからないというときは、まずは心行くまで寝てみましょう。
睡眠は心身の万能薬です。
ぐっすり眠れば、次に何をすべきか、何をしたいかの考えもまとまりやすくなるはずです。

ひとりで悩まない

困ったことや不安に思うことは、一人で抱えこまずに家族や友人、医師に相談しましょう。出口のない問題に見えていても、他の人に相談してみると解決の糸口が見えることがあります。
また、心のうちを吐き出しただけで気持ちが楽になったり、誰かに聞いてもらえただけで安心できたりするものです。
決断など大事なことは、どんなに今決めたくなってもぐっと堪えて、うつ病が治ってからするよう心がけましょう。

自己判断で治療を止めない

うつ病治療では、医師の指示どおり抗うつ薬を「十分な量=それぞれの薬に定められた最大用量」と「十分な期間=半年以上」服用することが必要とされています。
治療の途中で勝手に抗うつ薬を減らしてしまったり、飲むのをやめてしまったりすると、症状が改善しないまま慢性化してしまうこともあるのです。

一度治療を始めたら、自己判断で治療をやめないことが、早期回復への近道であることを肝に銘じましょう。

まとめ

うつ病の治療は一朝一夕でできるものではありません。
まとまった時間と、それを続ける忍耐が必要になります。
しかし、忘れないでほしいのは「うつ病は治る病気」ということ。
きちんと治療していくことでゴールが訪れますので、焦らず、気持ちをゆったりとさせて治療に臨んでいきましょう。
治療はうつ病の方を苦しめるものではなく、助けるためにあるものです。
わからないことや不安なことがあればすぐに専門の医師に相談し、自分に合った治療法を見つけていきましょう。

初村 英逸

監修

初村 英逸(はつむら ひではや)

2009年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック梅田院院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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