男性にも更年期障害がある~LOH症候群とうつ病の関係~

最近、ずっと疲れがとれない──
ずっと、肩こりがひどくて痛い──
長い間、気分が晴れない──
性欲がなくなった──

《更年期障害》というと女性の病気のイメージがありますが、実は男性にも更年期障害があると考えられています。テストステロン(男性ホルモン)の低下によって引き起こされる《LOH症候群》が男性更年期障害の実体ですが、《うつ病》もまた、男性更年期障害の実体を構成しています。

この記事では、男性更年期障害について、その実体であるLOH症候群やうつ病とあわせて、症状や対処法などを解説します。

男性更年期障害とは

一般に《更年期》や《更年期障害》といえば女性の加齢にともなうものがよく知られていますが、男性にも更年期や更年期障害があると考えられています。

女性の更年期

《更年期》は、もともとは女性を対象とした用語で、日本産科婦人科学会は、更年期・更年期障害を「閉経前の5年間と閉経後の5年間をあわせた10年間を『更年期』といいます。更年期には様々な症状(更年期症状)が現れますが、特に症状が重く日常生活に支障をきたすような状態を『更年期障害』といいます。[1]と定義しています。

国際的に統一された《更年期障害》の診断基準は現時点では定まっていませんが(よく用いられる評価スケールはあります)、更年期に現れる、日常生活に支障をきたすような症状に対し、明らかな器質性疾患(甲状腺機能異常・貧血・メニエール病など)が認められないときに、更年期障害として取り扱われます。
ホルモン補充療法(HRT)や漢方などが更年期障害の代表的な治療法です。

男性の更年期

ホルモンの変化は加齢にともなう自然な現象ですが、変化は男女で異なります。女性の場合、生殖ホルモンは閉経前後の約10年間に急激に減少します。男性では、ホルモンレベルの低下は40代以降ゆっくりと進みます。
《男性更年期障害》も、このホルモンレベルの低下を想定したものです。男性更年期障害は正式な診断名ではなく俗称で、更年期の男性に見られる類似した不調の総称です。
男性の更年期障害は、女性の更年期障害以上にあいまいな状態です。男性更年期障害というくくりでは、ホルモン低下に限らず、心理的・社会的要因によるものも含まれます。また、症状自体はさまざまな疾患に現れる普遍的なものであるため、その一部は、実際に《うつ病》や《適応障害》などの診断がつく可能性があります。

男性更年期障害のうち、加齢による男性ホルモン(テストステロン)の低下にともなう体調不良を医学的に《LOH症候群》とよびます。LOH症候群は《加齢男性性腺機能低下症候群》ともよばれます。“LOH”は“Late-onset hypogonadism”の略で、意味は「晩発型性腺機能低下症」です。
男性更年期障害とLOH症候群は同一視されることがありますが、実際には完全に同じものというわけではありません。

男性ホルモン:アンドロゲンとテストステロン

《男性ホルモン(アンドロゲン)》は、雄(男性)の生殖器の発達や機能を促進し、第二次性徴を発現させる作用を持つ生体物質の総称です。主に精巣(睾丸)から分泌され、一部は副腎皮質からも分泌されます。
男性ホルモン(アンドロゲン)には以下のようなものがあります。

  • テストステロン
  • アンドロステロン
  • デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)
  • アンドロステンジオン

このなかでも《テストステロン》が主要な成分であり、男性ホルモンの9割以上を占めるとされています。一般的には「男性ホルモン=テストステロン」と考えて差し支えありません。
テストステロンは、以下の発達や維持などに役立ちます。

  • 筋肉量と筋力の増強・維持
  • 性器と生殖器の発達・維持
  • 適切な赤血球量の維持
  • 骨密度の維持
  • 気力・意欲・幸福感

身体は血中テストステロン濃度を厳密にコントロールしています。通常、血中テストステロン濃度は朝に最も高くなり、日中には低下していきます。

テストステロンの減少の影響

テストステロンは、多くの疾患リスクに関連しており、男性ホルモン値の高い人のほうが長寿という報告もあります[2]
テストステロンの減少は、以下のような疾患や症状に関係があるとされます。

  • 抑うつ(気分の落ち込み)
  • 性機能の低下
  • ED(勃起障害)
  • 集中力と記憶力の低下
  • 男性の乳房組織の肥大
  • 糖尿病・肥満・メタボリックシンドローム
  • 骨粗しょう症
  • 心血管疾患(動脈硬化・血管内皮機能の低下)
  • サルコペニア(筋肉減少症)

男性の更年期症状

男性の更年期症状には、以下のようなものがあります。

精神的症状

男性の精神的な更年期症状には以下のようなものがあります。

  • 気分の落ち込み(抑うつ)
  • 不安・焦燥感(イライラ)
  • 集中力の低下
  • 記憶力の低下
  • 疲労感

身体的症状

男性の身体的な更年期症状には以下のようなものがあります。

  • 筋力低下・筋肉痛
  • 肩こり・腰痛・手足の関節の痛み
  • 発汗・ほてり・のぼせ
  • 動悸・息切れ
  • 頭痛・めまい・耳鳴り
  • 不眠・日中の眠気
  • 頻尿

性機能関連症状

男性の性機能的な更年期症状には以下のようなものがあります。

  • 性欲の減少
  • 勃起障害
  • 射精感の減退

放置されがちな男性更年期障害

更年期障害は症状を自覚しても、放置されがちです。

厚生労働省の調査によると、更年期症状を自覚し始めてから医療機関を受診するまでの期間について、「3カ月程度までに受診した」のは、女性の40代が9.1%、50代が11.6%、男性の40代が9.2%、50代が6.1%でした。「受診していない」割合は、女性の40代が81.7%、50代が78.9%、男性の40代が86.6%、50代が86.5%でした(図1)。
実に8割以上の人が、症状を自覚しても受診せずにそのままにしておくという結果で、特に男性は女性よりもその傾向が強くみられます。

LOH症候群の症状

LOH症候群は、男性更年期障害の中でも、テストステロン値の低下をともなうものです。
LOH症候群の診断基準では、テストステロン値の低下と、症状を組み合わせて判断されます。テストステロン低下は内臓脂肪量と関連しており、肥満はテストステロン値を低下させ、低テストステロンは肥満を促進します。
以下のような症状が、LOH症候群の診断基準に含まれています。実際の症状としては、性機能症状が圧倒的に多いのが特徴です。

  • 総合的に心身の調子が悪い
  • 関節や筋肉の痛み
  • 発汗・のぼせ
  • 眠れない、眠りが浅い
  • よく眠気を感じる、疲労感
  • いらいらする
  • 神経質になった
  • 不安感
  • 身体の疲労や行動力の低下
  • 筋力の低下
  • 憂うつな気分
  • 「絶頂期は過ぎた」と感じる
  • 力尽きた、どん底にいると感じる
  • ひげの伸びが遅くなった
  • 性的能力の衰え
  • 早朝勃起の頻度減少
  • 性欲の低下

LOH症候群の原因

LOH症候群の主な原因は、テストステロンの低下です。
テストステロンは加齢、重度のストレス、生活習慣、肥満、2型糖尿病などで低下します。
ある研究では、肥満男性の30%が低テストステロン値であったのに対し、正常範囲の男性ではわずか6%でした。別の研究では、2型糖尿病の男性の25%が低テストステロン値であったのに対し、糖尿病のない男性では13%でした[4]

いつ受診すべきですか?

男性更年期障害でみられる症状は、さまざまな疾患、あるいは一時的な不調でもよくみられるものです。そのため、少し症状があるからといって、すぐに医療機関を受診する必要があるとは限りません。
特に生活習慣の乱れや、強いストレスがある場合は、もともとこういった症状が出やすい状態のため、数日で改善傾向がみられるようなら、生活習慣を正しながら様子見でほとんど問題ないでしょう。
しかし、男性更年期障害外来への初診患者の半数近くがうつ病だったという報告もある(後述します)通り、軽いから無視してよいということではありません。心身の異変は疾患のサインの可能性もあるので、以下のような場合は医療機関に相談することを検討してください。

  • 症状がとてもつらい。
  • 病気ではないかと不安に思う。
  • 時間経過で症状が悪化(症状が強くなる、増えるなど)している。
  • 複数の症状が2週間以上続いている。
  • 不調がたびたび起こる。
  • 受診すべきかどうか迷う。

かかる診療科は、性機能の症状は泌尿器科に、身体症状が強い場合は内科に、心理的な症状が強い場合は精神科・心療内科がよいでしょう。最近は、「男性更年期外来」や「メンズヘルス外来」という名称で男性更年期障害を専門的に診療している医療機関もあります。

男性更年期障害・LOH症候群とうつ病

上で少し述べましたが、男性更年期障害の実体がうつ病である可能性は決して低くありません。LOH症候群の精神症状はうつ病と類似しており、両者の区別は困難です。
泌尿器科で行われた調査では、男性更年期外来の初診患者の47.8%にうつ病の診断がつきました。内訳は、60代では2割、40代・50代では6割でした。このことから、男性更年期外来を受診する患者(特に40代・50代)の中には、LOH症候群を合併する・しないを問わず、うつ病患者がかなり多いと考えられます[5]

更年期に発症するうつ病を《更年期うつ病》とよぶことがあります。更年期うつ病は主に女性を対象とした呼び方で、男女問わないこの時期のうつ病は《初老期うつ病》ともよばれます。
以下はうつ病の代表的な症状です。

必要に応じて、うつ病のセルフチェックなどもあわせてご活用ください。

男性更年期障害の予防と改善

男性更年期障害の改善や予防には、生活習慣の見直しが大切です。

  • 質の良い睡眠:規則正しい生活の基本は、就寝時間と起床時間を毎日守ることです。起床時間を守ることは特に重要です。目が覚めたら、まず朝日を浴びてください。質の良い睡眠を十分にとりましょう。
  • バランスの良い食事:栄養バランスを考えた食事を、毎日3回、決まった時間にとりましょう。朝食が特に重要です。外食はできる限り減らし、野菜中心の食事を心がけ、肉よりも魚を食べましょう。深酒を避け、塩分を控えましょう。料理は少し物足りないくらいの薄味でちょうどよいです。
  • 適度な運動:適度に運動することで、夜の寝つきがよくなります。また、適度な運動がメンタル改善に役立つことが分かっています。運動には男性ホルモンの増加効果も期待できます。
  • ストレスの軽減:ゆっくり入浴する、読書する、音楽を聴く、趣味を楽しむなどのリラックスできる時間を過ごすことは、ストレスの解消に有用です。

まとめ

更年期や《更年期障害》は女性を想定した用語ですが、男性にも相当する状態があると考えられています。《男性更年期障害》とよばれるそれは、条件を満たすことで《LOH症候群》と診断される可能性があります。
男性更年期障害の症状は、「気分の落ち込み」「不安・焦燥感」「記憶力・集中力の低下」などの精神症状、「筋力低下・筋肉痛」「肩こり・腰痛」「発汗・ほてり・のぼせ」などの身体症状、「性欲の減少」「勃起障害」などの性機能関連症状と多岐にわたります。LOH症候群の症状は、これらと重なります。
LOH症候群の主な原因はテストステロン(男性ホルモン)の低下です。テストステロンは加齢、重度のストレス、生活習慣、肥満、2型糖尿病などで低下します。

男性更年期障害でみられる症状は、さまざまな病気、あるいは一時的な不調でもよくみられるものです。男性更年期障害外来への初診患者の半数近くがうつ病だったという報告もある通り、男性更年期障害の実体がうつ病である可能性は小さくないと考えられています。
男性更年期障害の改善や予防には、生活習慣の見直しが大切です。質の高い睡眠、バランスの良い食事、適度な運動をこころがけ、ストレスをためない生活を送りましょう。
それでも症状が続く場合は、医療機関の受診を検討してください。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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