忘年会に行きたくないのはうつ病だから?


年末には、ある人は楽しみに、また別の人は苦々しく思うイベントがあります。
──そう、忘年会です。
1年間の苦労を忘れるという忘年会ですが、むしろ忘年会こそ苦労だ、という人もいることでしょう。実際、「飲み会の雰囲気が苦手」「仕事が忙しくて時間が割けない」「参加費の負担がつらい」などのさまざまな理由から忘年会に参加したくないという人は少なくないようです。
この記事では、主に忘年会に行きたくない人にむけ、忘年会に行きたくない気持ちへの対処法について解説します。
忘年会に行きたくない人は少なくない
広辞苑によると、「忘年会」とは「その年の苦労をわすれるために、年末に催す宴会。
」[1]のことです。忘年会は、宗教的な由来を特に持たない、日本独特の行事です。
起源ははっきりしませんが、鎌倉時代・室町時代に原型となる行事が行われるようになり、江戸時代から明治時代にかけて、より現代に近い形で定着していったようです[2]。
出典:『2024年 忘年会意識調査』[3]
Job総研の調査によれば、2020年のコロナ禍のあおりで忘年会はしばらく自粛ムードでしたが、2023年のコロナの5類移行後以降、再び勢いを盛り返しています(図1)。
これは、参加者が忘年会を親睦・人脈作りの場と捉えていることも関連しているでしょう。
出典:『2024年 忘年会意識調査』[3]
実際、「参加したい」理由を見ると、「同僚との親睦を深めたい」が49.2%で最多、次いで「対面で話す機会が欲しい」「上司との関係を構築したい」が47.1%・36.1%と続いています(図2)。
職場の忘年会は、人間関係の構築に主眼が置かれているようです。
出典:『2024年 忘年会意識調査』[3]
参加意欲に関しては、「参加したい派」が54.1%、「参加したくない派」は45.9%です。「参加したい派」が上回っているものの、「参加したくない派」も無視できる割合ではありません(図3)。
出典:『2023年 忘年会意識調査』[4]
※参加したくない理由は2024年調査には非掲載のため、2023年のデータを参照。
「参加したくない」理由を見ると、「気を使うのが疲れる」が36.7%で1位、「特に必要性を感じない」「経済的な負担が気になる」「プライベートを優先したい」がいずれも約33%で2~4位を占めています(図4)。
全体に、公私をわけたいという意見が多いようです。また、金銭負担が気になる人の割合も大きく、これは複数の忘年会に参加する場合などは特に影響がありそうです。
忘年会に参加したくないときは医療機関に相談すべきか?
忘年会を断るための処世術
忘年会が苦痛だ、ストレスで仕方がないという人は、思い切って参加を断るのも一つの選択です。
ただし、突発的に決まる飲み会と異なり、忘年会は通常、何日も前から幹事が予定をたて、会場を確保し、食事を予約してと、相応の手間がかかっているものです。
参加しない場合でも、幹事への感謝と敬意を忘れずに誠実に対応することが、お互いにストレスを増やさないために大切なことです。
- お詫びではなく「お誘いいただき、ありがとうございます」:不参加を選ぶとしても、誘ってくれたことに感謝の言葉を述べましょう。謝罪が必要な場面ではないので、通常はお詫びではなくお礼を伝えるのが適切です。
- 参加できない理由は簡潔に:ながながと理由を述べる必要はありません。「その日は先約があって」「最近、体調がいまひとつで」「アルコールを控えるように医者にいわれているので」「締め切り直前で」など、事実にそくした断りを入れます。あまり具体的に説明する必要はありません。
なお、嘘も方便ということもありますが、あまり見え見えの嘘はお互いに気まずい思いをする可能性があるので、できる限り嘘は避けたほうがよいです。何を話し、何を話さないかに気をつけます。すべてを語る必要はありません。 - 断る場合はできる限り早く:断る時期が遅れると、キャンセル料がかかったり、プランに変更が生じたりする可能性があります。つまり、断りが遅くなることで周囲に実害が生じる可能性があるということです。行く予定がないのに「当日キャンセルすればいいや……」と空約束を入れるのはやめましょう。確かにアクシデントが起こる可能性はありますが、それが返事や断りを後回しにする理由にはなりません。
- あいまいにしない:断るときは、はっきり「行けません」と断りましょう。あいまいな返事は改めて返事をする必要が生じるなど、かえって手間も心理的負担も増します。
断るときこそ、幹事や他の参加者への配慮は忘れないようにしましょう。自分本位な態度は、後々の人間関係に尾を引く可能性があります。
断り切れずに参加することになった場合は?
断り切れずに参加することになった場合は、そのまま楽しんでしまうのがベストです。しかし、それができないこそ困っているのだと思います。現実的には以下のような対応が可能でしょう。
- 早めに退席する:決められた時間を苦しみながら過ごすくらいなら、いっそ途中退席しましょう。ただし、その場合も原則としてきちんと一人分支払う必要があります。コースで予約しているなら、一杯しか飲んでいなくても、店への支払いが減額されることは通常は無いからです。また、釣銭なしで済むように小銭を準備しておくなど、できる限り幹事に余計な手間をかけさせないようにしましょう。途中退席はあくまで自分の都合であることを忘れてはいけません。
- 適度に離席する:忘年会の間、ずっと自席にいないといけないということはありません。合間合間に席を立って、少し外の空気を吸うなどの気分転換も有効です。
繁忙期がうつ病をまねく可能性も?
「忘年会への参加が苦痛」という理由だけで、うつ病を発症するということはまずありません。しかし、「忘年会に出たくない」ということの背景には、日頃の職場の人間関係を含めた何らかの問題がありそうです。単に人付き合いが苦手だ、お酒が苦手だという理由でも、それは忘年会に限った話ではありませんから、やはり日頃からストレスをためている可能性があります。
そして、師走といわれるように、忘年会シーズンは何かと忙しい時季です。
このようなさまざまな要因が複合的に押し寄せることで、うつ病を発症するリスクが高まります。
もちろん、うつ病を発症したことで忘年会に参加したくないと感じている可能性もあります。
もし、単に疲れているだけで、週末ゆっくり休むことで回復できたのなら、それほど心配はありません。しかし、以下のような症状がいくつも出ている場合は要注意です。
- 気分が落ち込み、悲しみやむなしさを感じる
- 以前は楽しんでいた趣味や活動に興味がなくなる
- 不眠や睡眠不足、日中の眠気
- 食欲不振、あるいは過食
- 不安と焦燥感(イライラ感)
- 倦怠感や意欲・気力の減退
- 絶望感・無価値観
- 思考力・集中力・決断力の低下
- 死のことを考える、自殺願望を抱く
これらの症状が2週間以上続いている場合は、うつ病を発症している可能性があります。
うつ病は早期発見・早期治療が大切です。「うつ病かな?」と感じたときは、セルフチェックの結果に関係なく医療機関に相談してください。
忘年会前後を含む、冬季を通じて調子が悪いという場合は、冬季うつの可能性があります。また、忘年会に限らず同僚や軽い知り合いとの飲み会全般で緊張してしまうような場合は、社交不安障害の可能性もあります。
一方で、忘年会は乗り切っても、正月明けにどっと疲れが出て正月病になってしまうことがあるかもしれません。正月病は正式な病名ではなく、正月明けごろに現れるストレス症状の総称です。
いずれの場合も、日常生活に支障が出ているような場合は、医療機関にご相談ください。
飲酒について
すでにうつ病を治療中の場合は、忘年会での飲酒はどうすべきでしょうか?
うつ病に併存しやすい精神疾患にアルコール依存症があります。憂うつ感を紛らわせるために飲酒を繰り返し依存してしまうケースもよくあるようです。薬の副作用を増幅する、うつ病の症状を悪化させるなどの可能性もありますので、うつ病治療中は原則として飲酒してはいけません。
何らかの事情で飲酒が避けられない、やめられない場合は、事前に主治医に相談しましょう。
まとめ
1年間の苦労を忘れるために行われる忘年会は、楽しみにしている人がいる一方で、参加したくないという人もいます。公私をわけたい、経済的に苦しいなどがその理由としてあげられます。
参加しない場合は、できる限り早く、誘いへのお礼と共に、簡潔に理由をそえてはっきりと断るとよいでしょう。あいまいな返事や、返事の先送りは、かえって迷惑をかけてしまいます。
もし、断り切れずに参加することになった場合は、適度に休憩を入れたり、早めに退席したりするのがよいでしょう。ただし、早く帰るからといって値段交渉などをしてはいけません。
忘年会参加のストレスだけでうつ病になることは考えにくいですが、その背景に点在するさまざまなストレスや事情と相まって、うつ病を発症してしまう可能性はあります。
気分の落ち込み、趣味が楽しくない、夜に眠れないなどの症状がいくつも数週間以上続いている場合はうつ病を発症している可能性がありますので、医療機関に相談してください。


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うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。





