あがり症とは~実はうつ病の可能性も?~

あがり症とは?~実はうつ病の可能性も!?~

あがり症とは?

会社員だけでなく、人前に立つ機会の多い経営者や管理職の方、主婦、学生、サービス業や医療従事者など人と接する仕事に就いている人まで、「人前だと自分をうまく表現できない」と悩んでいる方がたくさんいるようです。
人の視線や態度に敏感な人ほど特定のシチュエーションにおいて平静でいられず、生きにくさを感じることもあります。

  • 会社の朝礼やプレゼンで人前に立つ
  • 結婚式のスピーチ
  • 保護者会での意見交換
  • 会社など人前で電話をする
  • 面接や面談で自分の考えを言う
  • 上司や先輩、同僚に見られる環境でパソコン作業をする
  • 発表会、ライブ、コンサートなどの舞台でこれまでの成果を発表する

上記のシチュエーションを思い浮かべたときに、心臓がバクバクしたり、手に汗握ったりしているかもしれません。このように“人前で何かをすること”に強い不安や緊張感を覚える症状を「あがり症」と呼びます。
あがり症は、医学的名称で「社交(社会)不安障害(Social Anxiety Disorder=SAD)」の中の「パフォーマンス限局型」に分類され、「パフォーマンス限局型 社交(社会)不安症」と診断されます。一般的に民間名称として扱われるのが「あがり症」といわれています。
症状が慢性化していくと、人前で何かをすることが怖くなるだけでなく、人と話したり、目を合わせたりするだけで緊張するようになってしまうと、社会との接触を避けるようになることも少なくはありません。
HSP気質の軽い症状でしたら特に問題ありませんが、日常生活や社会生活などに支障が出ているようであれば、うつ病などの精神疾患が隠れている可能性もあります。
単なるあがり症と考えず、医療機関へ相談することも必要と考えていきましょう。

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あがり症が起きる原因は?

あがり症のメカニズム

そもそも「あがり」とは、自分以外の何かに対して身体や心が勝手に反応してしまう、誰にでも起こりうる身体の自然な働きです。一方で、あがり症はそのあがりが過剰に発現し、日常生活を脅かしている状態だといえます。
あがりのメカニズムを紐解いていきましょう。

あがり症が起きる原因は?
1.自分を取り巻く環境(外部)から刺激を受ける
緊張したり、不安になったり、その内容は人それぞれです。
「人前に立つと緊張する」というのは多くの人に共通する刺激になりますが、1対1の会話が苦手な人もいれば、電話が苦手という人もいます。会社など人が周りにいるだけで緊張して仕事が手に付かないという人も少なくありません。
2.緊張とストレスにより体内(内部)からノルアドレナリンが分泌される
ノルアドレナリンとは交感神経を刺激するホルモンです。緊張するなど心身にストレスがかかると、ノルアドレナリンの血中濃度が増します。
普段、私たちの心身は、交感神経(仕事中など戦闘モードのときに働く)と副交感神経(休みの日などリラックスモードのときに働く)の働きがバランス良く入れ替わることで健康が保たれています。しかし、ノルアドレナリンの過剰分泌によって交感神経が強く刺激されてしまうと、副交感神経を働かせることができなくなり、心身が常に無理をしているような緊張感に包まれ続けます。その結果、身体にいろんな症状が現れるようになるのです。
自律神経は、自覚していなくても外部からの刺激に反応しています。例えば、私たちが意識することなく部屋の明るさによって瞳孔が縮小したり開いたりしていますが、それは自律神経が身体を守るために働いている証拠です。あがるという反応もまた、心のシグナルを身体が受け止めて、少しでもあなた自身を楽にさせようと働いているだけです。
自分があがっていると気づいたときは、「誰だって自律神経が刺激されればあがる」「決して特殊なことではない」ということを思い出し、冷静さを取り戻していきましょう。

あがり症とそうでない人との違いは?

人生において、誰にでも「緊張」という反応や経験をすることがあると思います。
では、あがり症の人とそうでない人にはどういった違いがあるのでしょうか?

あがり症、あがり症の傾向がある人

  • 人前に出るだけであがってしまう
  • 極度にあがって頭が真っ白になる
  • 人とうまくしゃべれない

あがり症ではない人

  • あがってはいるけど、何とかなってしまう
  • 人の目は気にならない
  • そもそもあがらない

といった大まかな違いから考えてみると、あがり症の人は脳が緊張する状況を学習した結果、「こういう場面ではあがる」というメカニズムを脳にインプットします。これを心理学的に表すと「条件反射」といいます。そのため、インプットされた条件が揃うと極度な緊張感を感じてしまうと考えられます。
一方、あがらない人は「人前に出てあがる」という条件反射が癖づいていないからあがらないということがいえます。
あがることが条件反射になっている場合は、あがりそうなシチュエーションを思い浮かべるだけで、緊張感や不安、めまい、腹痛、汗かきなど実際にあがったときと同じ症状が出ます。シチュエーションを思い浮かべるだけでは緊張しないという人は、まだあがり症ではありません。

あがり症の対策方法

緊張しているときに、緊張してはダメだと思ってしまうと、さらに緊張感が増してしまうものです。緊張してしまう自分をわかっているからこそ、本番前は入念に対策をしておくことが大切です。ここでは、その対策についてお伝えします。

準備期間~本番まで:練習をして自信をつける
「あがり症が起きる原因は?」でもご説明した通り、あがってしまう原因の多くは、恥ずかしいと感じた失敗の経験といわれています。
であれば、脳にインプットされた失敗や恥ずかしい経験を成功した経験に変えていくことも可能です。
事前に伝えたいことのメモや原稿を用意し、家族や友人の前などで練習を積み、人前で声を出す経験を積んでいけば本番でも成功できる可能性が高くなると考えられます。
本番当日の食事:トリプトファンを多く摂る
人は緊張やストレスを感じると「ノルアドレナリン」を分泌します。
あがり症の人は過剰分泌されてしまう可能性があります。
そこで、ノルアドレナリンをコントロールする「セロトニン」といった脳内物質が必要とされます。そのセロトニンの分泌を促す食材が、赤身の肉や魚、乳製品に含まれています。
手軽さでいうとホットミルクであれば温めるだけなので、本番前などにも気軽に摂取できそうです。
しかし、これさえ摂取すれば上手くいくとは限らないので、その点は注意しましょう。
本番30分前: 身体を温める
本番直前は、身体を温めることがおすすめ。副交感神経が活発化し、交感神経の働きを抑制してくれます。温かい飲み物を飲む、温かいタオルで首を温める、など。
その他には、首や手首、足首などをほぐしたり、ストレッチなどで緊張を和らげたりすることや良い意味で自分を騙すといった対策もあります。ドキドキ感をワクワク感と捉えたり、人前で何を伝え、何を表現するのかに意識を向けてみましょう。

しかし、実際に試してみたが、一向に効果が見られないといった場合は、専門的な視点で考える必要があります。現代では、あがり症を病気と捉えることにより適切な治療法で克服できる可能性があります。
また、あがり症自体は病気ではないので、あがり症と思っていた症状がうつ病や他の精神疾患であるケースも少なくはありません。その場合、日常生活に支障が生じるほど影響を受けてしまっている状態であれば、早めに精神科や心療内科への受診をおすすめします。

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あがり症を「病気」という
視点から
見ることの大切さ

あがり症は極度の緊張がストレスや不安に繋がり、人前に出られなくなったなど、社会との繋がりにも影響する場合があります。
そのような場合は、あがり症ではなくうつ病や他の精神疾患を考えてみることも重要といえます。
精神科や心療内科では、あがり症は「パフォーマンス限局型社交(社会)不安症」という診断名で考えることがあります。
パフォーマンス限局型社交(社会)不安症とは、周りから注目される社会的状況において、強い不安や恐怖が持続的であり、恥ずかしさや失敗するといった行動を恐れる状態をいいます。その状態が続くことにより日常生活に支障が生じてきます。
また、社交不安障害(社会不安障害)の国際的な診断基準(DSM-5)に基づき診断すると、

パフォーマンス限局型:その恐怖が公衆の面前で話したり動作をしたりすることに限定されている場合。

※参考文献 
『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)

といった、記述があります。
不安や恐怖が人前で話したり、動作したりすることに限定されている場合に社交不安障害(社会不安障害)の中の、「パフォーマンス限局型」に分類されます。
また、社交不安障害(社会不安障害)はうつ病と併発しやすいともいわれています。
強い不安や恐怖を感じやすい人ほど、複数の疾患を連鎖的に発症すると考えられています。
うつ病を併発した場合は、うつ病の専門治療も重点的に行うことが大切です。
うつ病にも軽症~重度とありますので、早い段階で受診することをおすすめします。

強い不安や恐怖感からうつ病を発症することも

あがり症の症状はうつ病を引き起こす場合もあります。うつ病は強い不安や恐怖、ストレスが積み重なる状況で引き起こされる可能性も高いといわれています。さまざまな出来事がきっかけとなり、うつ病を発症します。
主な要因は身体的要因・環境的要因といわれています。遺伝的要因については身体的要因と環境的要因と比較すると可能性は低くいと考えられています。
うつ病はうつ病専門の診断と治療が必要になります。
単なるあがり症で済ましてしまうと、落ち込みが激しくなったり、集中力の低下、睡眠障害(不眠・仮眠)などさまざまな症状が心身に現れてしまうケースも少なくはありません。
日常生活に支障が生じている場合は、うつ病の可能性も考え、適切な対処をしていきましょう。
うつ病かどうかの判断基準のひとつにセルフチェックで行える「うつ病自己診断」があります。うつ病自己診断の結果によっては、精神科や心療内科への受診が必要となります。

あがり症の治療方法

あがり症(社交(社会)不安障害)の治療は、主に精神科・心療内科で行われます。
主な治療法は、薬物療法と精神療法といわれています。

薬物療法

SSRIやベンゾジアゼピン系抗不安薬などが用いられることが多いといわれています。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

SSRIはパキシルやレクサプロなどが代表的な薬品名です。主に神経伝達物質のセロトニンに強い効き目があります。あがり症(社交不安障害(社会不安障害))は、セロトニンの量が少なく、うまく神経伝達ができていない状態です。
SSRIによって、セロトニンの量を増やして症状を改善させます。

代表的な副作用

抗うつ薬の中では、比較的副作用が少ないのが特徴といわれています。
しかし、飲み始めや身体が慣れるまでは吐き気などを引き起こす場合もあります。徐々に慣れてきて吐き気などは改善されていきますが、自己判断で減薬や断薬をしてしまうと強い離脱症状を起こす場合があります。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬

ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、強い不安に対し速やかに症状を改善させる薬です。リラックスをもたらす成分と知られるGABAに関係する薬です。GABAは中枢神経を抑制する脳内神経伝達物質です。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、GABAの脳内作用を増強させ、GABAの働きを強めることで不安や緊張を和らげます。

代表的な副作用

短期間で服用することが重要です。
依存性が高く、昼間の強い眠気など人によっては強い副作用が出る場合がありますので、注意が必要です。
長期間服用し続け、急に断薬してしまうと強い離脱症状が出ることがあります。イライラや物事を考えられないなど場合によってはてんかん発作などの深刻な状態になる場合もあります。用法・用量と期間などに注意して服用することが望ましいとされています。

精神療法(認知行動療法など)

患者さんによって、個人精神療法・精神分析療法・行動療法など患者さんの症状や病院の体制によって変えていきます。
主に、思考に働きかけて楽にするといった特徴があります。薬物療法のような副作用がなく効果が得られ、病気に対する治療だけではなく、予防にも繋げられるメリットがあります。
しかし、即効性があるわけではないので、短期間で治療を希望している患者さんや精神療法が合わない、提供できる医療機関が少ないといったデメリットもあります。

普段の生活に支障が生じている場合は、社交(社会)不安障害やうつ病を疑ってみることも大切です。また、治療は決して自己判断でやめないようにしましょう。
専門の医師の指示に従うようにしましょう。

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心身の負担が少ない治療を
品川メンタルクリニックで

品川メンタルクリニックは、患者さんへの安心感を重要視しています。
患者さん自身でうつ病の理解を深めていただき、現在の状況の把握から、いかに心身に負担をかけない治療を提供するかを考えています。

うつ病かどうかが分かる
「光トポグラフィー検査」

うつ病は従来、医師の主観のみで診断されてきました。
そのため、うつ病ではなく双極性障害(躁うつ病)だったといった誤診も少なくはありませんでした。
うつ病と双極性障害(躁うつ病)は、治療方法が異なるので、的確な診断がされないと不調が長引いてしまう場合があります。
そこで、品川メンタルクリニックでは、少しでも多くの患者さんが適した治療を行えるよう、厚生労働省認可の「光トポグラフィー検査」の導入をしました。
光トポグラフィー検査は、うつ病・双極性障害(躁うつ病)・統合失調症・健常の4つのパターンをグラフ化したデータで現します。
患者さん自身で現状の把握をすることも大切ですので、検査結果を当日中に確認することが可能です。また、光トポグラフィー検査の結果と医師の問診を併せて行うので、より的確な診断が可能となりました。

状態を的確に知ることが大切です!
うつ病かどうかをグラフデータで診断サポート!

副作用がほとんどない
「磁気刺激治療(TMS)」

品川メンタルクリニックは、磁気刺激治療(TMS)の専門クリニックです。
磁気刺激治療(TMS)とは、薬を必要としない、入院する必要がない、副作用がほとんどない治療期間が短いなどの特徴をもったうつ病の新しい治療方法です。
電気けいれん療法とも異なり、治療直後から車の運転が可能など、現代の画期的なうつ病治療です。

磁気刺激治療(TMS)はこんな方に向いています。

  • 抗うつ薬による副作用が辛い
  • 抗うつ薬に抵抗がある
  • 他の病気で既に薬物療法を行っていて、これ以上薬を増やしたくない
  • 短期間でうつ病を改善したい
  • とにかく心身に負担のかからない治療法がいい
  • 電気けいれん療法は受けたくない

など、磁気刺激治療(TMS)では、患者さんの意志に対し、幅広く対応できます。

治療中も患者さんは座っているだけなので、リラックスしながらできるうつ病治療です。
ストレス過多によるうつ病予防にも適していますので、気軽にご相談ください。

短期間の治療が可能です!
薬に頼らない新たなうつ病治療があります!

あがり症は、軽症であればトレーニングで克服できるかもしれません。
しかし、日常生活や社会生活に支障が生じている場合は、早めの精神科・心療内科への受診をおすすめしています。
あがり症は専門的なケアが必要であり、不安や落ち込みなどでエネルギーを消耗しているため、うつ病も併発しやすいといわれています。複数の疾患の連鎖を起こさない為にも、早めの対策が回復や改善への近道です。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックでは、うつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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