『セロトニン症候群』抗うつ薬の副作用



抗うつ薬には多様な副作用がありますが、それを象徴するものの1つに《セロトニン症候群》があります。セロトニン症候群は、脳内のセロトニンが過剰に活性化することで引き起こされると考えられており、適量処方ではめったに生じないものの、過剰な服薬や、特定の薬剤・ハーブなどとの併用で発症リスクが高まります。軽い症状から重い症状まで重症度は人によって大きく異なり、重症時には生命にかかわることもある、注意が必要な危険な副作用です。
この記事では、抗うつ薬の重い副作用である、セロトニン症候群の症状、原因、治療や経過などを解説します。
セロトニン症候群とは
《セロトニン症候群》とは、脳内のセロトニンが過剰に活性化することで、中枢神経系や自律神経系などの症状を引き起こす、抗うつ薬の代表的な副作用の1つです。セロトニン症候群は重篤な副作用であり、生命を脅かす可能性があります。
セロトニン
《セロトニン》は、神経伝達物質の1つで、ホルモンとしても作用する生体物質です。
学習、記憶、幸福感に影響を与え、体温、覚醒・睡眠、性行動、空腹感を調節するなど、複数の機能に関係しています。
体内のセロトニンの90%は腸などの消化器に存在し、脳内で生成されるものは約10%にすぎません。
セロトニンは必須アミノ酸の《トリプトファン》を材料にしています。必須アミノ酸とは、体内で作ることができないアミノ酸のことで、食べ物から摂取する必要があります。
セロトニンが不足すると、うつ症状や不安など、健康状態に影響を及ぼすと考えられています。
セロトニン症候群の初期症状
抗うつ薬などの飲み始めや増量したあとに、「不安になる」「混乱する」「いらいらする」という症状に加えて、以下のような症状が現れた場合は、セロトニン症候群を引き起こしている可能性があります。
- 興奮して落ち着かない
- 汗をかく
- 熱がでる
- 脈が速くなる
- 下痢になる
- 身体がぴくぴく動く
- 手や身体がふるえる
- 身体がこわばる
いつ受診すべきですか?
セロトニン症候群が疑われるときは、すみやかに主治医(または薬剤師)に連絡し、その指示に従ってください。もし連絡がつかない場合は、お薬手帳や処方された薬を持参して救急医療機関を受診してください。もしも、意識がもうろうとしてきたときは救急車を呼んでください。
セロトニン症候群であれば、服薬を中止し、安静にすれば通常はすみやかに軽快しますが、もしセロトニン症候群でなかった場合など、急な薬の中止がかえって危険につながることもありますので、自己判断せずに必ず医師・薬剤師にご相談ください。
セロトニン症候群の症状
セロトニン症候群の症状は、原因となる薬剤の開始や容量変更から24時間以内、通常は6時間以内に現れます。症状の重症度は人によって大きく異なり、重度の場合は合併症を引き起こして死亡する可能性もあります。
精神状態の変化
錯乱や気分の高揚感、不安・焦燥感などの精神症状がみられます。
自律神経症状
心拍数の増加、血圧の乱れ、瞳孔の拡大、高熱、発汗、嘔吐、下痢などの症状がみられることがあります。
神経筋の活動亢進
振戦(手や身体のふるえ)、ミオクローヌス(発作的な筋肉の収縮)などの症状がみられることがあります。
セロトニン症候群の原因
セロトニン症候群の原因薬剤は抗うつ薬がもっとも多く、ほとんどの場合はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)で生じます。セロトニン症候群は脳内の過剰なセロトニン活性によって引き起こされていると考えられています。
単剤より2種類以上の併用で発症することが多く、セントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)・高麗人参・ナツメグなどのハーブや、一部の市販薬などを併用することもリスクを高めることがわかっています。
セロトニン症候群と悪性症候群の違い
セロトニン症候群は、《悪性症候群》と類似した症状を示すことが多く、特に症状が重い場合には判別が困難な場合があります。悪性症候群は、抗精神病薬や抗うつ薬などを服用中に現れる副作用で、ドーパミン系の機能低下とセロトニン系の機能亢進が関与していると考えられています。
- セロトニン症候群に特徴的なのは不安・焦燥・興奮などの精神症状。
- セロトニン症候群には、吐き気や下痢などの消化器症状がともなう。
- 筋強剛などの錐体外路症状は悪性症候群に頻度が高い。
- ミオクローヌス(発作的な筋肉の収縮)と腱反射亢進(腱反射が過剰な状態。腱反射とは、膝を叩くと脚が跳ね上がるような、腱への刺激に筋肉が反射的に収縮する反応のこと)はセロトニン症候群に特徴的で、悪性症候群ではその出現頻度は低い。
- 症状発現までの時間は、セロトニン症候群で数分から数時間以内、悪性症候群で数日から数週間。
セロトニン症候群の治療と経過
セロトニン症候群は、抗うつ薬の過量処方では発症率が14%にのぼったという報告もありますが、抗うつ薬を通常用量投与されている限りは発症率1%未満のまれな副作用です。
セロトニン症候群の治療は、原因となる薬物を中止し、支持療法を行うというものです。症状がごく軽度の場合は、医師の診察を受け、原因となっている薬を中止するだけで十分な可能性もありますが、重症の場合は入院しての全身管理が必要です。
セロトニン症候群は迅速に処置すれば見通しが良く、70%は発症後24時間以内に改善するといわれています(薬物の性質によっては長引く可能性があります)。
診断され、早期に治療された場合は、多くは後遺症なく回復します。
セロトニン症候群の合併症
重度のセロトニン症候群の合併症には、以下のようなものがあります。
- 代謝性アシドーシス(体内の酸性度が過剰に高まる)
- 横紋筋融解症(筋肉が崩壊する)
- けいれん発作
- 急性腎障害
- 播種性血管内凝固症候群(血栓が多発する)
これらの合併症の原因としては、重度の高体温や過剰な筋肉の活動が含まれていると考えられています。
うつ病の非薬物療法
うつ病治療は薬物療法だけではありません。副作用が理由で薬物治療が難しい場合でも、ほかの治療が選択可能です。
うつ病の非薬物療法には、以下のような治療法があります。
休養・環境調整
《薬物療法》の有無に関係なく、うつ病治療において休養や環境調整はとても大切なことです。ストレスに満ちた環境では心も休まらず、うつ病の治療どころではありません。《休養》はとにかく休むこと、《環境調整》はストレスフルな環境からストレスの少ない環境に修正することで、発症前よりもストレスを減らすことを目的とします。
心理療法・精神療法
《精神療法・心理療法》は、主に心理学的介入によって患者個人が抱える問題の軽減・解消を目指す治療法を指し、多くの場合は他の治療法と組み合わせて用いられます。
電気けいれん療法(ECT)
《電気けいれん療法(ECT)》は、頭部への通電によって人為的にけいれん発作を誘発することで、精神症状の改善をはかる治療法で、重度のうつ病や統合失調症などに高い治療効果を発揮します。
現在では筋弛緩剤と全身麻酔を併用することで、(けいれん時の)骨折や怪我などのリスクを下げる《修正型電気けいれん療法(m-ECT)》が標準になっています。
重大な副作用に記憶障害があり、また治療時に絶飲食や入院が必要など、他の治療法と比べるとECT実施のハードルは高めです。
TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)
《TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)》は、磁気を介して脳の特定部位を刺激することで、うつ症状を改善させる治療法です。TMS治療では患部(脳)を直接治療するため、副作用がほとんど無いことが大きな特徴です。副作用が理由で薬物治療が続けられないという人にはTMS治療は特におすすめです。セロトニン症候群の心配もありません。
また、TMS治療は薬物療法とは異なるメカニズムでうつ病に働きかけるので、薬の効果が無い人にも有効である可能性があります。特に2剤目の抗うつ薬も効果が無かった場合は、TMS治療を試す価値は十分に高いでしょう。
まとめ
《セロトニン症候群》とは、脳内のセロトニンが過剰に活性化することで、中枢神経系や自律神経系などの症状が出る、抗うつ薬の重大な副作用の1つです。錯乱や焦燥感、高熱、発汗、下痢、身体がぴくぴく動くなどの多様な症状が現れます。セロトニン症候群の原因薬剤は抗うつ薬がもっとも多く、ほとんどの場合はSSRIで生じます。
セロトニン症候群は、抗うつ薬を通常用量服薬している限りはまれな副作用ですが、複数の抗うつ薬を服用したり、特定の薬剤やハーブなどと併用したりすることで発症リスクを高めます。重症の場合、治療が遅れると生死に関わる可能性がありますので、セロトニン症候群が疑われる場合は、自己判断せず、すみやかに医師や薬剤師に連絡し、その指示に従ってください。
副作用が治療の障壁になる場合、非薬物治療であるTMS治療は副作用もほとんど無いため、治療の選択肢として有用でしょう。


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