スマホ依存症とは? うつとの関係や対処法

2008年のiPhone上陸によって、日本のスマートフォン(以下スマホ)市場は本格的にスタートしました。
2015年には二人に一人が保有するほどまでに普及が進み、今日では暮らしに欠かせないツールのひとつに成長しています。
その一方で、スマホの長時間使用から生じる、心身の不調や経済的、社会的なダメージなど、負の側面がクローズアップされることも少なくありません。

この記事はスマホの負の側面ともいえる《スマホ依存》《スマホ依存症》について解説します。

スマホ依存症とは?

現在のところ、《スマホ依存》《スマホ依存症》は医学的に認められた“疾患”ではありません。
その前身ともいえる《ネット中毒》《インターネット依存》《インターネット依存症》といった概念が20年以上議論され続けていますが、いまだ明確な定義は定まっていないのが現状です。

その中で、2019年5月、世界保健機関(WHO)が《ゲーム依存症(障害)》を、《国際疾病分類》で正式に“疾患”であると位置づけました(注1)。
WHOによる《ゲーム依存症》はインターネット以外のゲームへの依存も含んでおり、ネット依存そのものではありませんが、《インターネット依存》の議論についての回答の1つであることは間違いありません。
実際に、2020年2月に厚生労働省主導で行われた「ゲーム依存症対策関係者会議」の資料によると、国立病院機構久里浜医療センターを2016年~2017年に新規受診した患者の9割が、ゲーム(その98%以上がオンラインゲーム)に依存していた(注2)ということですから、インターネット依存の大部分をゲーム依存が占めているのは間違いなさそうです。

インターネット利用率

インターネット利用率

参考:総務省「通信利用動向調査」(各年)より作成

総務省発表の「通信利用動向調査」によると、2011年から2019年の8年間でPC(パソコン)によるインターネット利用が徐々に減少する半面、スマホによるインターネット利用率は16%から63%と、約4倍に増加しています(注3)。
インターネット利用がPCからスマホにスライドしていく中でスマホ依存という呼び方がポピュラーになってきただけで、本質的な部分ではインターネット依存のバリエーションや後継と考えるのが妥当なところでしょう。
よって、スマホ依存症とは「一定期間継続して」「日常生活よりもスマホを優先してしまうことで実生活に明らかな支障をきたしているのに、それでもスマホの利用がコントロールできない」状態だといえ、実質的には“疾患”として治療が必要な状態であると考えられます。

スマホの特異性

スマホというデバイス(機器)自体が持つ特徴により、より深刻な結果に結びついている可能性はあります(注4)。

かつては、ゲームならゲーム機やゲームセンター、映像(動画)ならテレビや映画館、音楽ならオーディオ機器やコンサート会場と、設置場所と体験が強く結びついていました。つまり、場所・時間・機会によって利用が自然と制限されていたのです。
しかし技術の進歩に伴い、録画(ビデオテープやDVD・配信等)によって視聴可能なタイミングや時間の制限が緩やかになり、音楽プレイヤーで音楽が持ち運べるようになり、携帯ゲーム機がゲームをどこでもプレイ可能にし──とその制限は緩和されていったのです。

そしてスマホは、食卓でも教室でもオフィスでもトイレでも布団の中であっても、電波が届きさえすれば場所を問わず使用できます。(マナーやルールを無視すれば)映画館でゲームをしたり、授業中に音楽を聴いたり、職場でゲームをしたりと、場所だけではなく時間や機会の制限すら無視できてしまうのです。
しかも、たった一台のデバイスによって、です。

これは周囲からはスマホをどのように使っているかを把握しにくいということであり、例えば学生なら不登校になったり、成績が下がったりすることで問題が発覚するなど、どうしても対処が遅れがちであるということを意味します。

スマホの長時間利用が引き起こす不調

ネットサーフィンやSNS(ソーシャルネットワークサービス)、ゲームなどに夢中になり、ふと気づくと数時間が過ぎていた──実際にそのような経験がある方もいることでしょうし、家族や知人がそうだという方もいることでしょう。
しかし、本人は楽しい時間を過ごしたつもりでも、心身は想像以上に負担を強いられている可能性があります。

・健康被害
スマホは軽量であるとはいえ、片手で支えながら操作する方も多いことでしょう。これは手指に少なくない負担と不自然な動作を強いることになり、腱鞘炎を引き起こしかねません。また、長時間画面を見下ろし続けることで、首や肩が凝る原因にもなります。
画面をずっと見つめ続ければ自然にまばたきが減り、眼精疲労やドライアイになる可能性があります。
夜遅くまでのゲームプレイやSNS閲覧が生活のリズムを乱し、睡眠不足や集中力の低下などを招くリスクがあります。
実際、国内の高校生295人を対象にした「携帯電話の過剰使用と不眠症・うつ病」との関係に関する研究では、携帯電話の長時間の使用が、不眠症やうつ病に関連していると報告されています(注5)。
・経済的・社会的トラブル

睡眠不足が遅刻や欠勤、不登校などを引き起こす可能性があります。集中力の低下が学業不振や仕事のパフォーマンス低下につながることもあります。学生なら留年や退学、社会人なら失業するリスクもあります。
都度課金(ゲーム内アイテムの入手等に課金される)制のゲームを遊ぶときに、ついつい気軽に課金してしまい高額請求されるという事例は後を絶ちません。子供が勝手に課金してしまうことで、高額請求書に保護者が仰天するという話を耳にしたことがある方も少なくないことでしょう。

このような生活態度が周囲に歓迎される可能性は極めて低く、家族や周囲との人間関係の悪化、ひきこもり、物を壊す、暴力をふるう、などさまざまなトラブルにつながるリスクがあります。

スマホ依存症の予防と対処

2010年から2011年にかけて中学生を対象に東京大学大学院によって行われた調査では「慢性的な孤独感や抑鬱が背景となってネット依存が引き起こされている」可能性が指摘されています(注6)。

予防の観点では、親子の場合なら、まずスマホを与える時期をできる限り遅くすることが望ましいでしょう。与える場合も、本人専用品よりも親のスマホを貸し出す方が状況を把握しやすくなります。
そして日ごろから、子供が興味を持っているものに関心を持ち、コミュニケーションをとる必要があります。子供の変化に気付くことで深刻な事態が生じる前に対処できる可能性が増します。

しかし、理想はそうであっても、現実的には難しい場合があることも事実です。
本格的に依存している場合は、個人や家族の努力だけで対処するのは困難なので、専門機関での治療が必要です。
そこまで深刻でない場合なら、スマホをどれくらいどのように使っているのかを、記録をとってきちんと把握することから始めましょう。
いきなり完全に使用中止するなど極端な目標は達成困難ですから、まずは「食卓には上げない」「布団の中には持ち込まない」など実現可能な範囲で、段階的にスマホから離れる時間を増やしていきます。また、スマホを使わない楽しみを持つ、塾や習い事を始めるなど、スマホ以外の時間を増やすことも有効に働きます。
まずは保護者自身が適切なスマホとの距離を保ち、手本となるようにしましょう。

他の精神障害との合併

韓国やアメリカを始めとして、ネット依存者がうつ病や発達障害など他の精神障害を合併している事例が数多く報告されています。
また、長時間のスマホ利用がうつ病リスクを高めているという報告もあります。
前述の「ゲーム依存症対策関係者会議」の資料では、ゲーム障害患者の19%にうつ病が認められ、自殺のリスクのある患者が35.4%に上ったと報告されています。

「Journal of Medical Internet Research誌2020年8月11日号」で報告された中国における「インターネット依存症の重症度と精神病理学、深刻な精神疾患、自殺傾向との関連性」調査では、以下のように指摘されています(注7)。

「中等度から重度のインターネット依存症は、身体症状を含むメンタルヘルスへの悪影響と強く関連しており、うつ病との最も強い関連性が示唆された。このことから、中等度から重度のインターネット依存症に対するサポートは、妥当であると考えられる。インターネットプラスや人工知能の時代において、人間の健康問題を解決する観点から、健康政策担当者やサービスサプライヤーが、このことを理解することが重要である」
(ケアネットより引用)

例えば睡眠時間が1時間短くなったとしても、遅刻や寝坊などの実害がなかったり、注意されれば使い方を改められたりなど、日常生活に悪影響がないようなら依存の段階ではありません。
しかし、睡眠時間が減っているということ自体が実はうつ病の症状の可能性もあり、依存ではないから問題なし、というわけではありません。気分の落ち込みや、着替えや歯磨きのような身だしなみを整えることをおっくうに感じるような場合は、うつ病を発症している可能性があります。

うつ病の改善には早期発見と早期治療が大切です。うつ病は放っておけば自然治癒するというものではなく、時間の経過はむしろうつ病を深刻化させてしまいます。 うつ病が疑わしい場合は、できる限り早めに精神科や心療内科を受診しましょう。
30秒でできるうつ病のセルフチェックがありますので、気になる方はまずこちらをお試しください。

まとめ

《スマホ依存》や《スマホ依存症》は医学的に認められた“疾患”ではありませんが、その影響は深刻で、実質的には“疾患”として治療が必要な状態であると考えられます。

スマホの携帯性は、過度のスマホ使用を周囲が把握することを妨げ、PC時代の《ネット中毒》《インターネット依存》《インターネット依存症》と比べても、より深刻な事態を作り出しやすくなっているようにみえます。
スマホの長時間利用は健康被害や経済的・社会的トラブルを引き起こす可能性があります。

スマホ依存はうつ病などの精神疾患と合併しやすく、気分の落ち込みや、着替えや歯磨きのような身だしなみを整えることをおっくうに感じるような場合は、うつ病を発症している可能性があります。
うつ病が疑わしい場合は、できる限り早めに精神科や心療内科を受診してください。

<脚注>

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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