趣味が楽しめなくなったのはうつ病のせい?

以前は楽しかった趣味が楽しめなくなった。
友人との会話を楽しく感じなくなった。
食事が楽しくない。
笑うために努力が必要である。

「興味・関心、喜びの減退/喪失」は、うつ病をはじめ、統合失調症・PTSDなど各種の精神疾患によくみられる症状で、専門的には《アンヘドニア(無快感症・快感消失)》といわれます。
アンヘドニアはうつ病固有の症状ではありませんが、うつ病患者の7割にみられ、診断の基準としても重要です。

この記事では、アンヘドニア(無快感症・快感消失)の意義や原因、治療法、自殺やうつ病との関係などについて解説します。

趣味が楽しめないアンヘドニア(無快感症・快感消失)とは?

《アンヘドニア》は、かつて楽しんでいた趣味や活動に対し、楽しみや喜びを感じることができなくなる症状/状態のことです。英語では“anhedonia”とつづり、《無快感症》《快感消失》《失快楽》などと和訳されます。
米国精神医学会(APA)は、無快感症を「平常時は楽しめた経験や活動を楽しめなくなった状態」と定義しています[1]。無快感症は、抑うつ気分と並ぶ、うつ病の中核症状であり、うつ病患者の7割がこの症状をもつといいます。
無快感症は、うつ病の症状として広く研究されていますが、統合失調症やPTSDなど、他の精神疾患にも同様の症状が現れます。

なお、無快感症はポジティブな感情を喪失する症状であり、悲しみや怒りなどのネガティブな感情を失うかどうかは問いません。

うつ病と無快感症

無快感症は、うつ病患者において、より重度の抑うつエピソード、より高い自殺リスク、抗うつ薬治療への反応不良と大きな関連があることがわかっています。
うつ病には、無快感症(興味・関心、喜びの減退/喪失)以外にも次のような症状があります。

  • 気分が落ち込み、悲しみやむなしさを感じる
  • 食欲の変化や体重変動
  • 不眠または過眠
  • 不安や焦燥感(イライラ感)
  • 疲れが取れず、やる気が出ない
  • 自分には価値が無いと思い込む
  • 思考力・集中力・決断力が低下する
  • 自殺や死について考える

このような症状がいくつも2週間以上続き、日常生活に支障が出ている場合はうつ病の可能性があります。

うつ病は早期発見・早期治療が重要です。「うつ病なのかな?」と疑わしい場合は、セルフチェックの結果に関係なく精神科・心療内科にご相談ください。

快楽の要素

私たちは、日常的に趣味や活動に喜びや楽しみを見出します。
無快感症では、これら人生のさまざまな体験への興味・関心や楽しみ・喜び(快楽)が失われます。一般に、これらの快楽は《期待の喜び》《完了の喜び》の2つの要素に分類されます。

期待の喜び

《期待の喜び》とは、将来を楽しみにしたり、予期したりして生じる喜びです。
人気のレストランを予約し、その味や雰囲気を想像してわくわくするのは期待の喜びです。毎週楽しみにしている21時のドラマを見るために、飲み物を準備して、ドキドキとソファで21時を待つのも期待の喜びです。

完了の喜び

《完了の喜び》とは、活動や体験の完了時に得られる喜びです。
食事に満足し口元を拭いているときや、ドラマを楽しんだあとに感じる喜びが、完了の喜びです。

無快感症の種類

一部の研究者は、無快感症を《社会的無快感症》と《身体的無快感症》の2つに分類しています。

社会的無快感症

《社会的無快感症》では、社会的な状況で得られる喜びを喪失します。社会的無快感症では、以下のような状態がみられます。

  • 他者との交流への関心が低下する。
  • 友人と会うことを楽しみに感じなくなる。
  • 社交的な場面を楽しめなくなる。

身体的無快感症

《身体的無快感症》では、身体的な行為から快感を得られなくなります。身体的無快感症では、以下のような状態がみられます。

  • 食事を味わう楽しみを感じなくなる。
  • 風景を眺める、花の香りをかぐ、身体を動かして汗を流すような身体感覚を楽しめなくなる。
  • 愛する人とのスキンシップが快くなくなる。
  • 性欲や性的快感が減少、喪失する。

無快感症と自殺

無快感症と自殺リスクの関連性はかねてより指摘されています。
ある研究によると、無快感症は、特に気分障害(うつ病など)やPTSDの患者で自殺リスクと相関していると分析されています。特に自殺念慮については、もっとも一貫して相関が認められたとのことです[2]
また、重度のうつ病患者を対象とした調査では、無快感症の最近の変化が自殺念慮のリスク増加に関連していると報告されています[3]

無快感症は医療機関に相談すべき?

少し前まで熱中していた趣味に関心を失っても、その分、新しい趣味を始めたり、意欲的に仕事に取り組んだり、家族との時間が充実していたり、人付き合いに精を出していたりするようなら、それはおそらく、以前の趣味に飽きただけです。医療機関の出番はないでしょう。
しかし、趣味や好きな活動を楽しめないだけではなく、眠れない、食欲がない、集中できないなどの複数の症状が2週間以上続いているような場合は、うつ病にかかっている可能性があり、医師に相談する必要があります。

無快感症の原因

無快感症は、うつ病以外にも以下のような精神疾患などでよくみられます。

  • 精神障害(双極性障害・統合失調症・PTSDなど)
  • パーキンソン病、糖尿病、冠動脈疾患など
  • 物質使用障害、薬物乱用など

無快感症は、脳活動の変化に関連していると考えられています。ドーパミン(気分を良くする生体物質)を生成したり、それに反応したりする脳の仕組みに問題が生じている可能性があります。

無快感症があるうつ病の治療法

《薬物療法》は抗うつ薬を中心とした治療法で、現在のうつ病治療の主流ですが、無快感症がある場合は、抗うつ薬の効果が限定される傾向があります。そのような場合、他の治療の方が効果的な可能性があります。

精神療法・心理療法

《精神療法・心理療法》は、主に心理学的介入によって、患者個人が抱える問題の軽減・解消を目指す治療法のことで、多くの場合は他の治療法と組み合わせて用いられます。

電気けいれん療法(ECT)

《電気けいれん療法(ECT)》は、頭部に通電することで人為的に引き起こしたけいれん発作によって精神症状の改善をはかる治療法です。効果は高いですが、記憶障害などの重い副作用が出る可能性があります。通常は入院が必要です。

TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)

《TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)》とは、磁気による誘導電流で脳の特定部位を刺激し、うつ症状の改善を図る治療法です。副作用がほとんど無いことが特徴で、麻酔なども不要、普段の生活を続けながら通院治療が可能です。その他の特徴としては「治療期間が短い」「再発率が低い」ことがあげられます。

複数の研究で、無快感症を有するうつ病患者へのTMS治療が有効であったと報告されています[4][5][6]。無快感症があるうつ病は薬の効果が限定される難治性であることが多く、TMS治療が効果的である可能性があります。

まとめ

「興味・関心、喜びの減退/喪失」は、かつて好きだった活動や趣味への興味を失い、快楽を感じられなくなる症状/状態のことで、専門的には《アンヘドニア(無快感症・快感消失)》といわれます。
無快感症で失われる快楽は、期待から生じる《期待の喜び》、活動や体験の完了時に得られる《完了の喜び》の2要素に分類されます。無快感症は、社会的体験による快楽を喪失する《社会的無快感症》と、身体的体験による快楽を喪失する《身体的無快感症》に分類されることがあります。

うつ病患者において、無快感症は、より重い抑うつ状態、より高い自殺リスク、抗うつ薬治療への反応不良と関連していることがわかっています。無快感症はうつ病固有の症状ではありませんが、うつ病患者の7割にみられ、診断の基準としても重要です。
無快感症があるうつ病の場合、一般的な《薬物療法》の効果が限定的である傾向があり、《精神療法・心理療法》《TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)》などの他の治療の方が効果的な可能性があります。

趣味や好きな活動を楽しめないだけではなく、眠れない、食欲がない、集中できないなどの複数の症状で日常生活に支障が出ている場合はうつ病にかかっている可能性があり、医師に相談する必要があります。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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