適応障害の症状や原因、うつ病との関係
私たちの暮らしはストレスに満ちています。適度のストレスは私たちの生活にメリハリを与え、個人を成長させる良い面もありますが、過剰なストレスは私たちの心身をむしばみ、さまざまな不調を生じさせます。
ストレスになる出来事の直後に、心身にさまざまな症状が出る状態を、《適応障害》と呼びます。適応障害のすべてが深刻な事態につながるわけではありませんが、適応障害が長期間続くような場合は、うつ病などのより深刻な状態を招く可能性があります。
この記事では、適応障害の症状・原因・治療方法や、うつ病との違いなどについて解説します。
適応障害とは
《適応障害(適応反応症)》とは、ストレス因となるライフイベント後に、さまざまな心身の症状を生じる状態です。日本にこの診断名が導入されたのは1980年からで、それ以前に《心因反応》《異常体験反応》《心因性うつ状態》《神経症性うつ病》《不安神経症》などと診断されていた状態の中で比較的軽症なものが、現在の適応障害とおよそ同じものです。
アメリカ精神医学会(APA)の『DSM-5』では、適応障害について以下のような診断基準が示されています。
- ストレス因がはっきりしており、その発生後3か月以内に症状が出現している。
- ストレス因に対し不釣り合いなレベルの症状や苦痛があるか、日常生活や人間関係に重大な支障がある。
- 他の精神疾患の基準を満たさず、単なる悪化でもない。通常の死別反応でもない。
- ストレス因がなくなれば6カ月以内に回復する。
ストレス因は1つとは限らず、複数の場合もあります。
ストレス因が急な出来事(例えば、突然の失業など)の場合、通常は数日程度で発症する一方、期間は長くならないことが多いですが、ストレスが持続する(例えば、転職先が見つからない)ほど、適応障害の期間も長引く可能性があります。
適応障害の症状
適応障害による症状は、精神面、身体面、行動面などに現れます。
適応障害の精神的な症状
適応障害では、次のような精神症状が現れることがあります。
- 気分の落ち込み、悲しみ
- 強い緊張感、不安、プレッシャーを感じる、いらいらする
- 情緒不安定になる(不機嫌、怒りっぽくなる、涙が出るなど)
- 判断力・集中力の低下
- 記憶力の低下
- 否定的な思考、悲観的になる
- 自殺企図
適応障害の身体的な症状
適応障害では、次のような身体症状が現れることがあります。
- 不眠や睡眠不足、日中の眠気
- 身体の痛み(頭痛、腹痛、肩こり、背中の痛みなど)
- 胃腸の不調(下痢・便秘、吐き気など)
- ドキドキする、息苦しい
- 手のふるえ
- 発汗
- 食欲不振
適応障害の行動面の症状
適応障害では、次のような行動面の症状が現れることがあります。
- 仕事のパフォーマンスや学業成績が落ちる
- 請求書の支払いを忘れる
- 遅刻や欠勤が増える
- 飲酒や喫煙が増える
- 衝動的、無謀な行動をとる
- 家族や友人などの人付き合いを避けるようになる
- 自傷行為
適応障害は怠け?
適応障害の症状は、ストレス因から離れることで劇的に改善されることがあります。
例えば、職場の上司との関係がストレスになって適応障害を発症した人が、金曜の終業後には症状が消失する、ということもあります。週末に元気に遊びに行っている患者のようすを知って(そして月曜に症状がぶり返しているのを目の当たりにして)、「怠けているだけなのでは?」「さぼっているのでは?」「仮病では?」と疑われることもあります。
しかし、これは適応障害の特徴であり、怠けたりさぼったりしているわけではありません。
いつ医療機関にかかるべきですか?
悪いことが起きたときにそれをストレスに感じ、動揺するのは当然に起こることで、それを理由に医療機関の門をたたく必要はありません。夜眠れない、胃腸の調子が悪い、疲れが取れないなどの症状が出ても、それが数日のことであれば、しばらく様子見で構わないでしょう。
しかし、不調が数週間続くような場合や、日常生活に支障が出ているような場合は医療機関に相談しましょう。
適応障害の原因
適応障害の原因はストレスです。仕事、学校、家庭、恋愛、健康など、さまざまな場面で生じるあらゆるストレスは適応障害の原因となる可能性があります。例えば、以下のようなものがあげられます。
- 転職・失業・転勤
- 恋人との破局・失恋・離婚
- 結婚・出産
- 犯罪・火事・自然災害などにあう
- 自分や家族が重病になる
- 経済面の問題
- パワハラ、セクハラ、いじめ
- 他の精神障害や身体的な疾患などの健康問題
このリストには、《PTSD(心的外傷後ストレス障害)》を発症する可能性があるほどの強烈なトラウマ体験も含まれています。ストレス体験の受け止め方やストレス耐性には個人差があり、人によってストレス反応の出方はまちまちです。ほとんど動揺することなく、健康をまったく損なわない人もいます。同じストレスを受けても、全員が適応障害を発症するわけではありません。
なお、良い出来事であっても適応障害を引き起こす可能性があります。結婚や出産、就職などは通常喜ばしい出来事ですが、人や状況により、適応障害を発症する原因となる可能性があります。
適応障害の治療
実際のところ、適応障害に対する治療は確立しているとは言い切れない部分があります。
適応障害は、ストレス因から離れることで急速に回復することも多く、ストレス因を取り除くための《環境調整》が重要です。ストレス因や状態によっては休職や休学が必要とは限りませんが、休職・休学してゆっくり休むことが改善に有効な場合もあります。
適応障害は一時的な側面が強く、必ずしも《薬物療法》や「高強度の《心理療法》(認知行動療法など)」が必要ではありませんが、環境調整だけでは良くならない場合は、心理療法や薬物療法が行われることがあります。
適応障害とうつ病の違い
適応障害とうつ病は、症状面でよく似ている部分もありますが、異なる精神疾患です。
適応障害の症状は、うつ病の診断基準を、項目数や程度、期間などで満たさない状態です。
適応障害は明確なストレス因によって発症しますが、ストレス因が取り除かれたとたんに、まさに憑物が落ちたかのように、けろりとよくなる傾向があります。また、ストレス因がなくなってから半年以上続くことは基本的にありません。
うつ病は、適応障害のように原因がはっきりしているとは限らず、仮にストレスから解法されても、すぐによくなることはありません。
なお、適応障害が長期化・慢性化する中でうつ病に移行してしまう可能性があります。
適応障害の合併症
適応障害が治らない場合には、うつ病、不安症、薬物やアルコールの乱用、自傷行為、自殺など、より深刻な精神疾患や精神状態につながる可能性があります。
ストレスと共に生きる
生きていればストレスは必ず生じるものですから、適応障害を完璧に予防する事は難しいですが、多くのストレスは、あなたのライフスタイルを見直すことで軽減できます。
心身の健康を維持するために、ライフスタイルを見直しましょう。これらは、適応障害の予防や軽減に役立つでしょう。
- 良い人間関係を保つ:家族や友人など、大切な人との関係を大事にしましょう。彼ら彼女らは、あなたが困っていときに、はげまし、サポートしてくれます。
- 健康的な生活を維持する:毎日十分に睡眠を取り、健康的な食事をし、適度な運動をすることで、心身の健康を維持しましょう。飲酒・喫煙・薬物など、健康を妨げるものは避けるようにしましょう。
- セルフケアを行う:ゆっくりお風呂につかったり、本を読んだり、散歩したり、趣味を楽しむなどによりストレスを発散できます。憂うつだったり、いらいらしたりなど、自分の精神状態が良くない場合は、気分が良くなるようなことをしましょう。
まとめ
《適応障害(適応反応症)》は、ストレス因となるライフイベント後に、心身にさまざまな症状を生じる状態です。ストレス因がはっきりしており、その発生後3か月以内に症状が出現することが特徴で、通常は半年以内に改善します。
症状としては、気分の落ち込み、強い緊張感、判断力・集中力の低下などの精神症状、不眠や頭痛、食欲不振のような身体症状、仕事のパフォーマンスや学業成績が落ちる、人間関係を避けるなどの行動面の症状などがあげられます。これらの症状はストレス因から離れることで劇的に改善されることがあり、適応障害が怠けやさぼりと誤解されやすい理由の一因となっています。
適応障害の原因は仕事、学校、家庭、恋愛、健康など、さまざまな場面で生じるストレスです。うつ病と適応障害は異なる疾患ですが、症状などはよく似ており、適応障害の一部は、長期化する中でうつ病に移行してしまう可能性があります。
適応障害の治療では、ストレス因を取り除くための《休養》や《環境調整》が重要です。
適応障害を完璧に予防する事は難しいですが、多くのストレスは、あなたのライフスタイルを見直すことで軽減できます。
悪いことが起きたときにストレスを感じ、動揺するのは自然なことであり、それだけを理由として医療機関にかかる必要はありませんが、心身の不調が数週間続くような場合や、日常生活に支障が出ているような場合は医療機関に相談してください。
品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。