TMS治療の安全性:副作用と禁忌について精神科医が解説


「脳を刺激って、なんか怖い」
「すごく痛そう」
「頭をいじるって、記憶喪失とかになりそう」
「本当に安全なの?」
《TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)》は、磁気刺激を介して脳の機能異常の正常化をはかる治療法です。
脳を刺激するというと、少し怖く感じるかもしれませんが、実際には刺激中に頭痛を感じる程度で、長期間続く全身性の副作用もほとんど無い、安全性の高い治療であると認められています。
しかしながら、TMS治療はうつ病治療の中でもあまり知られていない治療法ということもあり、情報不足もともなって誤った情報やイメージが広がっているふしがあります。
──たとえば、記憶喪失を引き起こすのではないか、というような誤解です。
この記事では、TMS治療の安全性を、副作用を中心に、禁忌(受けられない人)、いくつかの誤解などとあわせて解説します。
TMS治療とは
《TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)》とは、磁気を介して脳を刺激し、機能異常の正常化をはかる治療法です。ほとんど副作用が無い上に、治療期間が短く、再発率も低いというメリットがあります。うつ病治療として確立しているほか、さまざまな精神疾患への適応が研究されています。
TMS治療のメカニズムは、電磁誘導によって脳そのものに渦電流(うずでんりゅう)を発生させ、神経組織(ニューロン)を刺激するというものです。
つまり「磁気」刺激とはいうものの、最終的には「電気」によって刺激する治療です。
日本ではマイナーな治療ですが、2003年にはカナダ・ドイツ・フランス・オーストラリア、2008年には米国のFDA(アメリカ食品医薬品局:日本の厚労省に似た米国の政府機関)に認可されるなど、世界的にも安全性が認められたうつ病治療です。
TMS治療の副作用
薬物治療では血液を通じて全身に作用するため、眠気や不眠、だるさ、下痢・便秘など、さまざまな副作用が現れます。TMS治療は治療部位(脳)に直接的に作用するため、全身性の副作用はほとんどありません。副作用が出たとしても、通常は施術ごとにすぐに治まる軽微で局所的なものです。
よくみられる副作用
TMS治療でよくみられる副作用として、以下の3つがあげられます。
- 頭痛
- 頭皮の痛み・不快感
- 顔面のチクチク感、けいれん、ひきつれ
これらの副作用は、ほとんど刺激中のみ発生し、刺激が終了することで解消されます。比較的高い確率(10~30%程度)で発生しますが、感じ方は個人差が大きく、大半の人が治療を続けているうちに慣れていきます。
一般的ではない副作用
その他にも、まれに以下のような副作用が生じることがあります。
- めまい
- 耳鳴り・聴力低下(適切に耳栓を使用することで防止可能)
- 急性の精神症状変化(躁転など)
- 顎の痛み
- 局所熱傷
けいれん発作
最も重い副作用としては治療中のけいれん発作があります。2021年の調査結果では「0.0031%(10万回に3回)」と報告されています[1]。
なお、けいれんを繰り返す症例や、てんかんを新たに発症した症例は一例も報告されていません[2]。
けいれん発作のリスク要因としては次のようなものがあげられます。
- 磁気刺激の頻度や量
- 睡眠不足
- 過度のアルコール摂取と離脱
- 特定の薬剤の使用
- けいれん発作の既往歴や家族歴
- 特定の神経疾患
- 重度の頭部外傷
ただし、TMS治療中のけいれん発作は、基本的に1分未満に自然に治まり、有害な後遺症が残ったという報告はありません。一般にけいれん発作が問題になるのは5~10分以上、発作や意識不明状態が持続する場合で、後遺症などが生じる可能性があります[3][4]。
なお、2019年に発表された報告によると、発作の62%が初回のTMS治療時に、75%が3回以内に発生したということです[5]。
TMS治療に適さない人は?
TMS治療はすべての人に無条件で安全というわけではありません。
以下に該当する方はTMS治療を受けることができません。
- 体内に金属を埋め込んでいる
- 心臓ペースメーカーを使用している
その他、身体の状態などによってTMS治療を受けることができない場合があります。
詳しくは診察時にご相談ください。
絶対禁忌:体内の金属・心臓ペースメーカー
頭部や首など、刺激部位近くに金属や電子機器が埋め込まれている場合、TMS治療を受けることはできません(絶対禁忌といいます)。たとえば、人工内耳、磁性体クリップ、深部脳刺激・迷走神経刺激の刺激装置などが含まれます。頭部に金属片(銃弾など)が残っている場合も受けることはできません。
また、心臓ペースメーカーを使用している場合もTMS治療を受けることはできません。
義歯や歯の詰め物、頭部から離れた位置の金属(股関節や膝関節の人工関節など)は、施術に注意が必要ですが、多くは実施可能です。医師に直接ご確認ください。
身体の状態
身体の状態によってはTMS治療が受けられないことがあります。
代表的なものとしては本人のけいれんリスクが高い場合があります。このような場合には医師が総合的に慎重に判断します。
妊娠中や授乳中には受けられますか?
授乳中のTMS治療に関するリスクは報告されていません。薬物治療と比較して、乳児に影響を与えるリスクが低いため、相対的に安全性が高いと考えられています。
妊娠中のTMS治療に関しては注意が必要です。胎児への直接的な影響は報告されていませんが、TMS治療はまれにけいれんを引き起こすリスクがあり、妊婦へのTMS適応は医師が慎重に判断します。
TMS治療は記憶喪失を引き起こしますか?
TMS治療を検討する際によく心配されるのは、記憶力や認知機能への影響です。
しかし、そのような心配は不要で、むしろ朗報があります。TMS治療が記憶障害を引き起こすことを示唆する臨床的証拠はなく、そのような報告はありません。むしろ、多くの患者が集中力や思考の明晰さの向上など、認知機能の改善を報告しています。
- 2024年のシステマティック・レビュー(関連文献を網羅的に調査した分析)は、TMS治療後の認知機能改善を支持しています。特に注意や記憶領域などにおける改善が顕著に認められたと結論付けています[6]。
- 2022年の研究では、TMSが神経可塑性(刺激に応じて活動を変化させる神経系の性質)を高め、長期的な認知機能の向上につながる可能性があると報告しています[7]。
- 2023年に発表された研究では、TMS治療が治療抵抗性うつ病患者の認知機能障害を改善することを示されており、認知機能の早期改善をもたらす可能性があると報告しています[8]。
誤解されるのはなぜ?
おそらく、こうした懸念は《電気けいれん療法(ECT)》との混同や情報不足によって生じているのだと考えられます。
ECTは重度のうつ病を治療するために麻酔下で脳を刺激します。ECTによって誘発された発作は、副作用として一時的な記憶障害を引き起こす可能性があります。
しかし、TMS治療はECTとはまったく異なるものです。
- TMSは電流を直接使用せず、磁気パルスを使用します。
- TMSは発作を誘発するものではなく、脳を穏やかに刺激します。
- TMSは特定の脳領域に絞って刺激します。
TMS治療が刺激するのは、記憶に関連する領域ではなく、気分調節や感情処理に重要な役割を果たす前頭前野です。
TMSの副作用についてよくある誤解
TMS治療では、記憶の障害以外にも副作用について誤解されていることがあります。
脳にダメージを与えるのでは?
正しく行われたTMS治療では、脳組織にダメージを与えることは確認されていません。使用される磁気の強度は、TMSが1.5~2テスラ、MRI(磁気共鳴画像診断装置)が1.5~3テスラと、同程度以下です。
TMS治療よりも古くから行われている《電気けいれん療法(ECT)》でも、脳への電気刺激の安全性が高いことは認められています。
片頭痛になるのでは?
TMS治療の副作用として頭痛が多いため、「片頭痛を悪化させるのでは?」と心配されることがあります。しかし、TMS治療は片頭痛のリスクを増加させることはなく、むしろ片頭痛に治療効果があるという研究報告があります[9]。
どんな人に適していますか?
ところで、逆にどのような人にTMS治療は適するのでしょうか?
次のような人には、TMS治療を検討する価値が大きいと考えられます。
- 薬物治療で改善がみられない方
- 薬物治療による副作用がつらい方
- 薬物治療が長引いている方
- 薬物治療に抵抗がある方
- 薬を減らしたい方
- 仕事や学校に通いながら治療したい方
- 早く日常生活に復帰したい方
- 薬による性機能障害を気にされる方
- 授乳中の方
- 受験生や勉強中の方
上の例以外でも対応できるケースがたくさんありますので、詳しくは診察時にご相談ください。
TMS治療は、薬物治療とは治療のメカニズムが異なりますので、薬物治療がうまくいかなかった人もあきらめずにご相談ください。
一人ひとりにあわせたオーダーメイド治療を心がけています。
まとめ:副作用がある場合でも、軽度かつ一過性であることが多い
《TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)》は、磁気刺激を介して脳の機能異常の正常化をはかる治療法です。
薬物治療と異なり、TMS治療は治療部位(脳)に直接的に作用するため、副作用は軽度かつ一過性であることが多く、重篤な副作用は極めてまれです。頭痛、頭皮の痛み・不快感、顔面のひきつれなどが、やや頻度の高い副作用です。重い副作用にはけいれん発作がありますが、頻度は非常に低いです。
体内に金属を埋め込んでいる人や心臓ペースメーカーを使用している人はTMS治療を受けることができません。ほかにも身体の状態によっては受けられない場合があります。
TMS治療が記憶喪失を引き起こすというような誤解がありますが、そのような報告はありません。
薬物治療で改善がみられない、副作用がつらい、受験生や仕事への復帰を急ぐ方などは、TMS治療によるメリットも大きいと思われます。うつ病やうつ病治療でお困りの場合は、ご予約の上ご相談ください。


品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。







