レム睡眠とノンレム睡眠

電車の座席でうとうとし、窓ガラスに頭をぶつけて目が覚める。
まぶたが重力への抵抗を諦め、右手のペンを取り落とす。
目を閉じて開けるまでの2分間の記憶が無い。
目覚ましに叩き起こされ、眠気が残って頭が働かない。

このような経験は、誰しも身に覚えがあることでしょう。
睡眠は、脳が活発に活動している《レム睡眠》と、脳も休んでいる《ノンレム睡眠》という2つの状態から構築されています。ノンレム睡眠は、さらに眠りの深さに応じて数段階に分類されます。
眠りの段階は、目覚めやすさや筋緊張の具合など、さまざまな身体の状態に影響します。

この記事では、レム睡眠とノンレム睡眠について、それぞれの特徴やサイクル、加齢が睡眠にどのような変化をもたらすかについて解説します。

睡眠とは

一般に、意識がある状態を《覚醒》、意識がない状態を《睡眠》といいます。
ただし、睡眠は「外部からの刺激への反応が低下しつつも、容易に覚醒できる状態」のことです。脳死や植物状態、全身麻酔で眠っている状態は、「容易に覚醒できる状態ではない」ので睡眠には含まれません。

睡眠は、《レム睡眠》と《ノンレム睡眠》という2つの状態から構築されています。

レム睡眠

《レム睡眠》の「レム(REM)」は《急速眼球運動》の英語“rapid eyes movement”の略語です。眼がぴくぴくと活発に動く状態のためそう呼ばれます。
レム睡眠では、(活動部位は異なりますが)覚醒時よりも活発に脳が活動します。そのため、眠っているのに目覚めているような睡眠として、《逆説睡眠》とも呼ばれます。
レム睡眠を「浅い睡眠」ということがありますが、実際にはレム睡眠とノンレム睡眠は質的に大きく異なる状態であり、単純に眠りの「深さ」を比較できるものではありません。

ノンレム睡眠

《ノンレム睡眠》は、「レム」状態にない睡眠、つまり“non-rapid eye movement”睡眠です。
ノンレム睡眠中は、脳のエネルギー消費と活動が1日の中で最も低くなり、脳の休息時間であると考えられています。近年の研究によると、覚醒中に多く使用した領域は、そうでない領域よりも深く眠ることが分かってきました。
ノンレム睡眠は脳波の状態によって、さらに数段階に分類されます。この分類は、かつては「睡眠段階1~4」の4段階分類でしたが、現在は米国睡眠医学会(AASM)の判定基準による、「睡眠段階3・4」をまとめた3段階分類がよく用いられます。当記事でもAASM基準の3段階分類で説明します。

睡眠周期

睡眠中は、脳の活動が停止しているわけでも、脳全体が均一に休んでいるわけでもありません。睡眠の進行に応じて、特徴的な活動を行っています(図1)。これは夜の睡眠だけではなく、昼寝でも同じです。

正常な睡眠では、ノンレム睡眠とレム睡眠が90分前後で1サイクルを構築します。ノンレム睡眠のステージ1(N1)からステージ2(N2)、ステージ3(N3)と進んだ後、再びステージをさかのぼってレム睡眠へ続くという構成です。一晩の睡眠でこのサイクルを4~6サイクル繰り返します。
睡眠後半になるほど深い睡眠(N3)が減少し、N2とレム睡眠の割合が増えます。

なお、90分周期とはいうものの、個人差や体調による誤差も大きく、実際には60分から110分程度の幅があります。

ステージ1(N1)

最も浅い睡眠段階です。脳波は覚醒時よりも遅くなり始めます。まどろんでいる状態で、外部刺激に反応して簡単に目覚めます。最初のステージ1に入った直後に起こされたときに、自分が眠っていたことが自覚できるのは4割程度です。
ステージ1に入ると、心拍・呼吸・目の動きが遅くなり、筋肉が弛緩します。
このステージは睡眠時間の約2~5%を占めます。一晩の睡眠を通して、必ずしも全サイクルでN1が生じるとは限りません。

ステージ2(N2)

まだ浅い睡眠ですが、ステージ1よりも深い睡眠段階で、完全に眠った状態です。脳波はさらに遅くなります。
ステージ2では、体温が低下、心拍・呼吸が遅くなり、目の動きは止まります。筋肉はさらに弛緩します。
このステージは他の睡眠段階よりも長く、一晩の睡眠時間の約半分を占めます。

ステージ3(N3)

最も深い睡眠段階で、脳波は一段と遅くなり、徐波と呼ばれる遅い脳波が中心となることから《徐波睡眠》とも呼ばれます。とても深く眠った状態で、このステージから直接目覚めるのは困難です。それでも起こされた場合、しばらくの間は強い眠気が残り、作業効率も低いままです。このぼんやりした状態を《睡眠慣性》と呼び、このステージ3から起こされたときに最も強く生じます。
ステージ3では身体はさらにリラックスし、脈拍・呼吸数が減少、筋肉はより弛緩します。成長ホルモが活発に分泌され、身体の成長や修復に重要なステージです。
ステージ3は主に睡眠の前半3分の1に現れます。睡眠の後半ではステージ3を経ないで、ステージ2から直接レム睡眠に変化する場合もあります。
このステージは、成人では睡眠時間の約20%を占めます。赤子や小児はもっと多く、高齢者は少なくなります。

レム睡眠(REM)

《レム睡眠》は、《ノンレム睡眠》の後に続く1サイクル最後の睡眠段階で、ステージ1に似た脳波を示します。
レム睡眠中、呼吸は速く不規則になり、心拍・血圧が覚醒レベル近くまで上昇、男性では勃起がみられます。筋緊張は消失し、全身脱力状態になります。レム睡眠中には感情を伴った鮮明な夢を見ますが、レム睡眠中のこの脱力は、夢の中での動作を実際に再現しないためと考えられます。
一晩の最初のレム睡眠は短く、夜が更けるにつれて長くなります。
レム睡眠は新生児では総睡眠時間の約80%を占めますが、成長と共に減少し、2歳ごろには成人と同等の20~25%くらいになります。

昼寝は30分以内が良いというのは、夜の睡眠に影響を与える可能性だけではなく、ステージ3に進んでしまうことで、昼寝後に《睡眠慣性》が生じ、かえってぼんやりしてしまう可能性があるためです。

まとめ

睡眠は、脳が活発に活動している《レム睡眠》と、脳も休んでいる《ノンレム睡眠》という2つの状態で構成されています。

正常な睡眠では、ノンレム睡眠とレム睡眠が90分前後で1サイクルを構築し、一晩の睡眠で4~6サイクル繰り返します。最も深い睡眠(N3)は睡眠の前半に偏り、睡眠後半になるほどレム睡眠の割合が増えます。

実際の睡眠の構造は年齢と共に変化し続けます。
中年期以降、総睡眠時間と深い睡眠は減少し続けますが、入眠後の覚醒時間が増え、寝床にいる総時間はあまり変化しません。つまり、ヒトは年を取ると眠りが全体に浅くなり、睡眠を維持することが困難になるといえるでしょう。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニックの統括院長・本院院長兼務。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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