精神科に行ったら人生終わり? いいえ、充電のチャンスです

「精神科に一度入ったら一生出てこられない」
「心療内科に行くのは心の弱い人」
「異常者と思われそう」
「精神科に行っていると、ばれるのが怖い」

精神科や心療内科に対して、こういった否定的なイメージを持っている人は少なくないようです。これらは基本的に誤解なのですが、なぜこのようなイメージが生まれるのでしょうか?
情報不足を背景に、偏った内容ばかりが目に入ることで、こうした否定的イメージが形成されてしまうことが少なくないようです。

この記事では、「精神科に行ったら人生終わり?」と感じてしまう一因となるスティグマを中心に解説します。

スティグマ:「精神科に行ったら人生終わり」と感じてしまう理由

精神科や心療内科の受診を避けよう、やめておこうと考える理由はさまざまです。
たとえば次のような心配や不安が、心にある可能性があります。

  • 病気が確定したら、その先はどうすればいいのか。
  • 自分だけが取り残されてしまうのでは。
  • どの程度の症状なら、行ってもよいのか。

「精神科に行ったら人生終わり」と考えるケースでは、多くの場合、精神科に対する、誤った/誇張された/古いイメージがもとになっていると考えられます。
このような否定的イメージを、専門的には《スティグマ》といいます。

《スティグマ》は、特定の性質や特徴が、自動的に否定的な意味として扱われるというものです。偏見、差別、固定観念、レッテル、ステレオタイプなどはスティグマと強く結びついており、しばしば同じ意味で用いられます。
スティグマは多くの場合、理解不足や恐怖心から生まれます。精神科医療においては、メディアによる、不正確、あるいは誤解を招くような精神疾患の描写が、この両方の要因に寄与しています。

スティグマの種類

最近の研究では、スティグマは《公衆スティグマ》《セルフスティグマ(自己スティグマ)》《構造的スティグマ》の3つに分類されます。

公衆スティグマ(Public stigma)

《公衆スティグマ》とは、より大規模な集団から特定集団に向けられる偏見や差別のことです。精神科医療においては、精神疾患を持つ人々やその家族、医療従事者に対して、他人が抱く否定的/差別的な態度を指します。
一般的にスティグマというと、公衆スティグマを指していることが多いです。

セルフスティグマ(Self-stigma)

《セルフスティグマ(自己スティグマ)》とは、公衆スティグマを自分自身に適用することによって生じる、自己否定的な態度や感情のことです。精神医療においては、精神疾患を持つ人々が、自分自身の病状に対して抱く、恥や不名誉などの否定的な態度や感情を指します。
支援を求めることを阻むなど、セルフスティグマは早期の診断・早期の治療への障壁になります。

構造的スティグマ(Structural stigma)

《構造的スティグマ》とは、さまざまな組織・集団に存在する、公衆スティグマやセルフスティグマを助長する構造です。法律、規制、政策、ルール、価値観など、官民問わず、あらゆる社会構造の中に埋め込まれ、精神疾患を持つ人々の権利を制限してしまう可能性をもたらします。
たとえば、精神疾患を理由に、就労や資格取得などに制限がかかるなどです。

スティグマと精神科医療

精神科に対する「人生終わり」というイメージは、社会が長い時間をかけて作ってきたスティグマの影響が大きいでしょう。

  • 一度入院したら一生出られない。
  • 薬漬けにされる。
  • 罰として電気ショックされる。

スティグマの厄介なところは、必ずしも完全なでたらめとは限らず、むしろ部分的な事実が、憶測や明らかな虚言とないまぜになることで、一言で「嘘である」と切り捨てにくい性質を持ちがちであることです。
事実とはいってもあくまで限定的であり、ごく一部のセンセーショナルな事実/過去にあった一例などに注目し、誇張された/拡大解釈された/一般化されたイメージを築き上げています。
そして、このようなスティグマが、受診をためらう原因となっていることは少なくないでしょう。

過去の残滓(残りかす)

たしかに、かつて精神疾患の多くは回復が困難な病気で、不治の病に近い扱いでした。発症後に世間から隔離され、人生の選択肢が大幅に失われた時代はありました。同様に、電気ショックが治療を超え、懲罰的に用いられることがあったことも事実です。しかし、精神科医療とそれをとりまく社会環境の進展とともに、こういった問題の多くは大きく改善されています。
スティグマとは、現在を投影しきれていない過去の残滓(残りかす)であるといえるでしょう。

拡大解釈と歪み

また、完全には過去になっていないことに関しても、それらは多くの場合、よりセンセーショナルな部分をクローズアップしているだけです。1つのエピソードとしては事実であっても、それを全体に拡大解釈し、適用するというのは現実的ではありません。それは「水を飲みすぎて/足を滑らせて/溺れて死ぬ人がいるから、水は人を殺す恐ろしい物質だ」という極論と同じで、現実を誠実に反映しておらず、不当で不公正なものです。
そのため、現代社会ではスティグマは不当で不公正なものとみなされます。

なぜスティグマが生まれるのか?

スティグマは多くの場合、理解不足や恐怖心から生まれます。メディアによる、不正確、あるいは誤解を招くような精神疾患の描写は、この両方の要因に寄与していると考えられています。
情報源は大きく分けると、以下の3種類に分類できます。

  • 家族や友人などの直接的な知り合い
  • 教育や文献
  • テレビやインターネットなどのメディア

私たちは日頃、このような情報源から知識を得ていますが、これらには偏りがあるのが普通です。
多くの人は精神疾患や、それを持つ人との実際の経験がありません。そのため、メディアで報じられる内容が、多くの人の精神疾患に対するイメージを形作っています。

しかし、マスメディアが取り上げる情報は、「何をとりあげるか」という選別が必ず入るため、どうしても完全な中立にはなりえません。報道されるのは、カメラのフレームに収められたものだけで、それも通常は編集されています。
農家のニワトリがイタチに襲われてもニュースにはならないでしょうが、新宿や赤坂にイノシシの群れが現れればニュースになるかもしれません。この選別や編集は報道の性質上避けられないものです。

犯罪や事件は、珍しいものほどセンセーショナルに報道されるものです。事件の関係者に特殊な事情があれば、そこがクローズアップされることはしばしばあります。そう、たとえば精神疾患などです。
残念ながら、精神科医療に関してメディアに取り上げられる場合は、否定的な文脈が多く、この傾向がスティグマを強化している可能性があります。

現在の精神科医療

残念ながら、スティグマは現在でも完全に解消されたわけではありません。人生の局所で精神疾患が不利益に働く可能性は皆無とはいえないでしょう。
しかし、多くの精神疾患で治療の研究がすすみ、完全に治らないまでも、日常生活を取り戻せる程度には症状が緩和できるなど、精神疾患を取り巻く環境は確実に改善しています。精神疾患を隠して放置するよりも、治療して改善するほうが、多くの不利益の解消につながることでしょう。
特にうつ病は、さまざまな治療方法が確立されており、「治る病気」としての認識が広がっています。隠したまま苦しみ続けるメリットはほとんどありません。
一時的な不利益はあったとしても、長い目で見るとそれ以上の利益が期待できるということです。

精神科に行くことは、ガス欠時にガソリンスタンドに行くようなもの

現代の精神科・心療内科は、「人生終わりの場所」ではなく「人生を立て直すための準備をする場所」です。
自動車がガス欠になったときに、「動かなくなった」といっていきなり廃車にはしません。普通はガソリンスタンドに給油しに行きます。同じように、心がガス欠になったときは、専門家の助けを借りてよいのです。一人で耐えたり、苦しんだりする必要はありません。あなたの人生は決して終わっていません。
もし、以下のような心身の不調を感じ、日常生活に支障がでているなら、それは精神科・心療内科を受診したほうがよいというサインです。

  • なかなか寝付けない、途中で目が覚めてしまう。
  • 食欲がない、食事がおいしくない。
  • 気分が落ち込む。
  • 趣味や活動に興味がなくなった。
  • 何をするのもおっくうに感じる。
  • 不安が大きくて苦しい。
  • 勉強・仕事や会話などに集中できない。
  • 悪い考えが止まらない。

判断に迷う場合はセルフチェックも役立ちます。ご自身の状態を客観視する助けになります。

より詳しい受診の目安や基準は以下の記事で解説しています。

早期受診・早期治療が早期回復のカギ

受診することを決心したあとは、どうすればよいのでしょうか?
今では多くの医療機関がインターネット上に問い合わせ先や受診方法などを掲載しています。精神科・心療内科も同様ですので、そちらで確認するとよいでしょう。
当院でも、「初めての方へ」に予約方法などをまとめてあります。

初診当日の流れは、状態確認→診断となります。精神科・心療内科でも、内科や皮膚科などと同じように、問診表、診察、検査などで情報収集し、これらを総合的に分析して治療の必要性や治療内容を判断します。診察ではいろいろな質問がされると思いますが、わかる範囲で答えれば問題ありません。

現代はストレス社会といわれるように、職場・学校・家庭と、どこにいてもストレスにさらされるリスクを抱えています。そのストレスを前にエネルギーが枯渇し、心身が病んでしまうということは特に珍しいことではありません。
うつ病などの精神疾患は早期発見・早期治療が非常に重要です。受診の遅れが重症化や慢性化につながる可能性がありますので、不調を感じたら、遠慮せずに精神科・心療内科を受診してください。
あなたは一人ではありません。

まとめ:あなたの人生は、まだ終わってなんかいない

精神科や心療内科の受診を避けよう、やめておこうと考える理由はさまざまですが、なかでも「精神科に行ったら人生終わり」と考えるケースでは、多くの場合は精神科に対する《スティグマ》という否定的なイメージが影響していると考えられます。

スティグマは多くの場合、理解不足や恐怖心から生まれます。
情報不足を背景に、精神科医療の否定的イメージはスティグマとして残存しているのが現状です。しかし、過去の不治の病のイメージや、社会から隔離されるというイメージは、精神科医療と社会の発展とともに、現在では大きく改善されています。
そのおかげで、精神疾患を隠して放置するよりも、治療して改善するほうが、多くの不利益の解消につながります。特にうつ病は、現在では「治る病気」としての認識が広がっており、隠したまま苦しみ続けるメリットはほとんどありません。

現代の精神科・心療内科は、人生が終わる場所ではなく、人生を立て直すための準備をする場所です。
もし、気分が落ち込む、寝付けない、食欲がないなどの心身の不調を感じ、日常生活に支障がでているなら、それは精神科・心療内科を受診したほうがよいというサインです。
一人で苦しまず、相談してください。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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