雨の日に気分が落ち込むのはうつ病だから?

弥生時代から二千年以上、稲作で栄えた日本において、雨は日常生活に密着した自然現象です。
生活を支える雨も、人や条件によっては大きなストレスになります。特に、台風や雷雨・豪雪のような荒天、長期間降り続くじめじめした天気などには、多くの人がストレスを感じることでしょう。

この記事では、ストレス要因としての雨とその影響や対処法、また雨のポジティブな側面について解説します。

雨と日本

時雨しぐれ夕立ゆうだち栗花落ついり風花かざはな銀竹ぎんちく天水てんすい梅雨つゆ凍雨とうう黒風白雨こくふうはくう地雨じあめ村雨むらさめ台風たいふう秋雨あきさめ洗街雨せんがいう──我が国は雨に関する言葉が実に豊富で、これは弥生時代から二千年以上、水田稲作を生業としてきたことと関係しているようです。古代より続く皇位継承の重要儀式である《大嘗祭(だいじょうさい、おおにえまつり、おおなめまつり)》は、国の安寧と五穀豊穣を願って、収穫した米などを奉納するもので、我が国が稲作と共に栄えてきた証の1つといえるでしょう。

四季折々の雨は災いと恵みのふたつの顔を持ち、私たちの先祖は、そのような雨と共に暮らしてきました。そのことが雨の言葉を豊かにしてきたようで、古今の雨の言葉を集めた『雨のことば辞典』には、実に千語を超える雨の言葉が収録されています。余談ですが、ジャポニカ米の故郷といわれる中国江南地方も雨の言葉が豊富だそうです[1]

雨というストレス源

雨天というのは、雨滴に限らず、風や雷など他の要素をともなう場合もあります。空気を湿らす程度の傘も必要ないようなものから、災害と呼ぶべき傘が役に立たないものまで、雨は多種多様な顔を見せます。また、凍りついた雹(ひょう)や雪など雨以外の形をとって地上に降り注ぐものを総称して降水と呼びます。
私たちを悩ませる雨の例には次のようなものがあります。

  • 集中豪雨・ゲリラ豪雨
  • 長期間降り続く雨
  • 台風や嵐

もちろん、このような分かりやすい荒天だけではなく、一般的な雨天を含めて、悪天候は私たちの生活に影を落とし、ストレスとなります。雨がもたらすストレスとしては、例えば次のようなものがあります。

  • 低気圧による不調:一般的に雨の日は気圧が低く、自律神経のバランスを崩す要因となります。低気圧は《気象病》を生じさせる可能性があります。気象病については後述します。
  • アレルギーによる不調:雨に流された花粉は、雨上がりに猛威を振るうことがあります。
  • 雨天の外出が面倒:雨が降っているからといって、外出しなくてよいとは限りません。ほとんどの人は雨天時にも外出する必要があります。
  • 水害の心配:長期間振り続ける雨や、滝のように一気に降る雨、台風のような破壊的な雨など、排水能力を超えた大雨は水害を引き起こす可能性があります。河川決壊による洪水や、地盤が緩むことで土砂崩れが起こるなど、広範囲にわたって大きな事故が発生するリスクがあります。
  • 乾かぬ洗濯物への不満:乾燥機や部屋干し派にはあまり影響はないかもしれませんが、外干し派にとっては深刻な問題です。

気象病

《気象病》とは、さまざまな気象変化によってもたらされる心身の不調の総称で、《天気痛》とも呼ばれます。気象病は、一般に天候の変化の前後に強くなります。
気象病では、次のような症状が生じる可能性があります。

  • 片頭痛
  • めまい
  • 肩こり
  • 耳鳴り
  • 不眠
  • 集中力低下
  • イライラ感
  • 古傷や関節が痛む

気象病がうつ病などの精神疾患をはじめ、さまざまな疾患に影響することが分かっています[2]

雨が降ったら医療機関へいくべきか?

通常は雨が降ったからといって医療機関に駆け込む必要はありません。しかし、あなたが雨で調子を崩すことがわかっているのなら、必要に応じて受診すると良いでしょう。
雨には良い面も、悪い面もあり、一部の人は、雨や悪天候によって体調を崩します。
特に、気分が落ち込む、趣味が楽しめない、食欲や睡眠に異常があるなど、日常生活に支障をきたす症状が数週間続くような場合は、うつ病を発症している可能性があります。つらい症状が長期間続くような場合は、無理をせずに医療機関にご相談ください。

天候とうつ病

うつ病の原因はストレスに限りませんが、ストレスはうつ病を発症・悪化させるリスクになりえます。悪天候時にうつ症状が悪化するという人は多く、実際にそのような報告もあります[3]
うつ病には以下のような症状があります。

  • 夜眠れない、変な時間に目が覚める
  • 朝ベッドから起きるのがつらい
  • 気分が落ち込む
  • 以前は楽しかった趣味や活動が楽しくない
  • 身だしなみや衛生面に気を使わなくなる
  • 人と会うことがおっくうに感じる
  • 仕事や勉強のパフォーマンスが落ちる
  • 遅刻や締め切りを守れないことが増える
  • 疲労が取れず、ずっとしんどい
  • 毎日を消費しているだけに感じ、充実していない
  • 死ねば楽になるのではと思う

このような症状が2週間以上続く場合は、精神科・心療内科を受診してください。

もし、「これくらいで受診していいの?」と受診を迷ってしまうようなら、セルフチェックなどで自分の状態を確認しておくとよいかもしれません。

いずれにせよ、うつ病は早期発見・早期治療が大切です。医療機関にかかるかどうか悩んでいる場合は、それも含めて受診することをおすすめめします。

雨が多いのはいつ?

ところで、雨はいつごろよく降るのでしょうか?

雨といえば梅雨というイメージがあると思いますが、気象庁のデータによれば、東京においては9月と10月が降水量の多い時季です。これは台風の影響も大きいです。
一般に秋の降水量の30~50%は台風によるものといわれ、これを東京9~10月の各月230mm前後にあてはめると、台風以外の降水量は、115~160mmくらいになり、梅雨と同程度か下回ります。
もともと、梅雨は南日本では顕著ですが、北日本ではそれほど明瞭ではなく、北海道などでは梅雨はありません。

雨のストレスへの対処

雨の悪影響を抑えるため、ストレス対策は助けになります。健康的な生活習慣は、ストレスの予防や解消に役立ちます。日頃から健康的な生活習慣を送ることはストレスへの大切な備えです。

  • 睡眠をしっかりとる:夜更かしや朝寝坊など、不規則な睡眠習慣は睡眠の質を低下させ睡眠不足を招きます。睡眠不足になると、イライラしたり、集中力が落ちたりなど生活に支障が出てきます。睡眠のリズムを守ることは快適な睡眠に重要な要素です。毎日同じ時間に寝て、毎日同じ時間に起きる習慣を身につけましょう。起床後はすぐに朝日を浴びてください。
  • バランスの良い食事をとる:毎日3回、栄養バランスを考えたおいしい食事をとることは、健康な身体の基礎となります。特に朝食を大切にしてください。
  • 適度に身体を動かす:身体を動かすことはストレスの予防・解消や健康にとって大切な習慣です。日中にほどよく疲れることで、夜の睡眠の質も改善されます。まずは散歩するなど、今より身体を動かすことを意識してください。

恵みの雨

雨が全く降らなければ、水が不足し、作物は育たず、私たちの生命も脅かされます。雨がほとんど降らない砂漠地帯が生命にとって過酷な環境であることは周知の事実です。
私たちの生活は、雨なしにはなりたちません。
雨はストレス源であると避けるだけではなく、雨の恩恵を生活の中で感じ受け入れることも、心豊かに過ごすための大切な対処法でしょう。

人体の60%は水

人体の60%は水からできています(若い成人男性の場合)。
水分の多い臓器・組織は、脳(85%)、筋肉(75~78%)、皮膚(72%)、肝臓(70%)で、水分の少ない臓器・組織は、歯(3%)、脂肪(6~10%)、骨(20%)です。一般にやせ型の人は水分が多く、脂肪が多い人は水分が少ないです[5]
体内の水分を5%失うと脱水症状や熱中症などの症状が現れ、10%で筋肉のけいれん、循環不全(血液循環の異常)などが起こり、20%失うと死亡の恐れがあります[6]

雨音のリラックス効果

《1/fゆらぎ》という現象があります。“f”は“frequency”(周波数)のことで、「1/f」は、パワーが周波数に反比例することを示しています。
自然界の音や動きに普遍的に見られ、小川のせせらぎ、滝の音、炎のゆれ、波の音などが1/fゆらぎを持つとされています。雨音も1/fゆらぎを持つ音(ピンクノイズ)の1つです。
1/fゆらぎは生体リズム(心拍のリズムなど)とも関連しており、リラックス効果を持つとされています。

天然の空気清浄機

空気中のちり・ほこりや汚染物質など、空気中を浮遊する汚れを雨が洗い流すため、空気が清浄になります。

運動効果が高まるかもしれない

雨の中で運動することは、通常よりも多くのエネルギーを消耗する可能性があります。雨にともなう気温や体温低下に対して、身体を温めるためにより多くのエネルギーが必要になるからです。足が滑らないように踏ん張ることもエネルギーを余分に消費しそうです。
また、運動することで高温になった身体を、雨が自然に冷却してくれる可能性があります。
このように、雨の中の運動は、運動効果を高める可能性があります。
ただし、雨の中で運動するときは、怪我や風邪などに、十分に注意してください。また、台風や暴風、豪雨などの荒天時は屋外での運動はやめておきましょう。寒い時季の場合、低体温症のリスクもあるのでこちらも注意が必要です。

まとめ

古くから稲作で栄えた日本において、雨は日常に密着した自然現象です。
生活を支える雨も、人や条件によっては大きなストレスになります。特に、豪雨や台風、長期間降り続く雨などは、多くの人にとってストレス因になることでしょう。
また、これらの気象の変化は、《気象病》という体調不良をもたらすことがあります。気象病では片頭痛・めまい・肩こりなどの多様な症状が現れます。
気象病は、うつ病などの精神疾患をはじめ、さまざまな疾患に影響することが分かっています。もし、気分が落ち込む、趣味が楽しめない、食欲や睡眠に異常があるなど、日常生活に支障をきたす症状が数週間続くような場合は、うつ病を発症している可能性があります。
つらい症状が長期間続くような場合は、無理をせずに医療機関にご相談ください。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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