品川メンタルクリニックのTMS治療

TMS治療のメリットとデメリット

Pros and cons of TMS therapy

うつ病治療には、薬物療法や精神療法、TMS治療など、さまざまな選択肢がありますが、それぞれにメリット・デメリットがあります。治療効果には個人差があるため、一人ひとりに合った治療法を見つけることが大切です。
本記事では、うつ病へのTMS治療のメリット・デメリットを、主に薬物治療と比較しながら解説します。

TMS治療のメリット

Pros of TMS therapy

TMS治療のメリットとして、次の三点があげられます。

  • 副作用がほとんど無い
  • 治療期間が短い
  • 再発率が低い

それぞれについて、以下で説明します。

ほとんど副作用が無い

TMS治療では治療部位(脳の特定箇所)に直接的に作用するため、全身性の副作用はほとんどありません。TMS治療後でも、いつもと変わらない生活を送ることができます。
一方、抗うつ薬などの薬物は、血流にのって全身を巡り、脳だけではなく全身に薬が作用するため、眠気・だるさ・ふるえ・吐き気のようなさまざまな副作用を起こします。これらの副作用のため、多くの抗うつ薬は、車の運転など危険を伴う行為について、禁止もしくは十分な注意が必要とされています。

治療期間が短い

個人差はありますが、TMS治療は数週間~半年程度が標準的な治療期間です。当院で30回の施術を行う場合は、多くの患者様が三カ月~半年程度で治療を終結します。
一方で薬物療法の場合は、最初に処方された抗うつ薬がしっかり効いた場合でも、減薬期間を含めて通常1~2年は服用し続けることが必要とされています。最初の処方で良くならない場合は他の抗うつ薬への切り替えや追加などが必要になりますが、それは治療がさらに長期化することを意味します。

図1STAR * D研究:最初の抗うつ薬処方で改善しない患者の、各継続治療段階の寛解率
《STAR * D》研究では、1~4段階の参加人数(左から1→4段階)が、3,671人、1,439人、390人、123人、寛解率(左から1→4段階)が、36.8%、30.6%、13.7%、13.0%と報告されています。

“Acute and longer-term outcomes in depressed outpatients requiring one or several treatment steps: a STAR*D report”の公開数値を元に作成[1]

米国国立精神衛研究所(NIMH)が資金提供した《STAR * D》研究では、以下の手順で四段階にかけて「最初の抗うつ薬処方で改善しない患者の治療方法」を調査しました。

  • (第一段階)最初の抗うつ薬を投与。
  • (第二・三・四段階)12週間かけても寛解(症状がほぼなくなること)または反応(うつ病の重症度が半分以下に改善すること)に至らない場合は、次の抗うつ薬に切り替え、もしくは追加投与。

結果として、各ステップあたりの寛解率は、(第一段階)36.8%、(第二段階)30.6%、(第三段階)13.7%、(第四段階)13.0%と報告されています。4ステップを通じた累積寛解率は67%と推定されています。

再発率が低い

うつ病は再発しやすい病気だといわれています。
最初のうつ病から回復しても6割が再発し、その7割が3回目を再発、3回の発症者の9割が4回目を再発と、発症を繰り返すたびに悪化します。回復時に症状が残っている場合は、再発する可能性がさらに高まります。
それに対してTMS治療の再発率は、平成29年度の日本精神神経学会で、「rTMS 療法が有効であった患者さんの6~12ヶ月における再発率は1~3割と推定」と報告されています[2]

上の「治療期間が短い」でも述べた《STAR * D》研究では、各段階の寛解者と治療反応者(うつ病の重症度が治療開始時の半分以下になった患者。そのまま治療を変更せずに継続)をフォローアップすることで、再発率についても調査しています。フォローアップ時に連絡がついた人のうち、約4~7割が3~4カ月のうちに再発しました。寛解者に限った場合でも、半年以内に3~5割が再発しています。治療期間が長いほど(段階が多いほど)早い時期に高確率で再発しています。

図2・3STAR * D研究:「最初の抗うつ薬処方で改善しない患者の継続治療」では、治療期間が長期であるほど、再発率が高くなり、早期に再発する傾向があります。
フォローアップ中の再発率(単位:%):左から「寛解からの再発率/反応からの再発率/全体の再発率」の順。第一段階「33.5/58.6/40.1」・第二段階「47.4/67.7/55.3」・第三段階「42.9/76.0/64.6」・第四段階「50.0/83.3/71.1」
再発までの期間(単位:ヶ月):左から「寛解からの再発時期/反応からの再発時期/全体の再発時期」の順。第一段階「4.4/3.6/4.1」・第二段階「4.5/3.2/3.9」・第三段階「3.9/3.0/3.1」・第四段階「2.5/3.5/3.3」

“Acute and longer-term outcomes in depressed outpatients requiring one or several treatment steps: a STAR*D report”の公開数値を元に作成[3]

TMS治療のデメリット

Cons of TMS therapy

TMS治療のデメリットとしては、「日本国内ではあまり普及していない」ことと、「短期的な治療費用が高い」ことがあげられます。

日本国内ではあまり普及していない

最初の抗うつ薬は、1957年に発見報告がありました。それ以来、全世界で使用され、日本でも普及しています。
一方でTMS治療は、最初のうつ病への応用例が1993年です。2003年にカナダなどでうつ病の治療として認可され、それ以来、海外では順調に普及しています。
日本国内におけるうつ病へのTMS治療に関しては、2000年代前半から臨床研究が進められ、2019年6月から保険適用されるようになりました。しかし、適用条件が厳しく、治療施設自体も限られることから、現在のところあまり普及できていません。自由診療で行われているTMS治療を考慮しても普及には程遠く、治療機会は非常に限られています。
なお、当院は2013年の開院からTMS治療を行っており、国内屈指の治療実績があります。9年間の臨床経験からの豊富な知見と、国内外でアップデートされるさまざまなエビデンスに基づき、より良い医療の提供に努めています。

短期的な治療費用が高い

前述のとおり、保険診療によるうつ病へのTMS治療は、条件がかなり厳格で、多くの場合は入院が前提になっています。そのため、国内での通院によるTMS治療は自由診療が主流です(当院も自由診療です)。自由診療は健康保険による給付が無く全額患者負担になるため、1回あたりの治療費用は高額になりがちです。
一方で治療期間が短くなることで、長い目で見ると節約になるというケースも十分考えられます。

TMS治療の恩恵が大きいと思われる人

Those who may benefit greatly from TMS therapy

これらのメリット・デメリットを考慮すると、次のような方はTMS治療を試す価値が大きいと考えられます。

薬物治療が長引いている

抗うつ薬の効果は早ければ二週間くらいで感じます。数カ月、数年と、特に薬を変更しても効果を感じない場合は、TMS治療を検討する意義が大きいと考えられます。

薬の副作用がつらい

耐えがたいほどの副作用は、生活に支障をきたしかねません。副作用のために自己判断で服薬を中断し、悪化するということもよくあることです。
副作用がつらく治療継続が困難な方には、副作用がほとんど無いTMS治療の恩恵は大きいと考えられます。

状況的に薬が使いにくい

妊婦や受験生など、ライフステージの状況から薬物治療を選択しづらいこともあります。もちろん、生死に関係するほど重症の場合は、ライフステージよりも治療を優先すべきですが、そうではない場合、日常生活を送りながら治療するという選択肢もあり得るでしょう。

逆に、抗うつ薬がよく効き、生活に支障もなく順調に治療できている場合は、改めてTMS治療を開始するメリットはあまり大きくないと考えられます。

まとめ

Summary

TMS治療には「日本国内ではあまり普及していない」「短期的な治療費用が高い」というデメリットがありますが、「ほとんど副作用が無い」「治療期間が短い」「再発率が低い」という、大きなメリットもあります。

薬物治療が長引いている場合や、薬の副作用に困っている場合、状況的に薬が使いにくい場合(妊婦や受験生)などは、TMS治療を検討する価値が大きいといえるでしょう。

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