品川メンタルクリニックのTMS治療

TMS治療の経過と目標

Prognosis and goals of TMS therapy

うつ病のTMS治療は約30回が標準的な治療回数ですが、回を重ねるごとに右肩上がりに回復するわけではなく、治療完了までに良くなったり悪くなったりと、波があるのが普通です。これはTMS治療に限らず、薬物治療などでも変わりません。
とはいえ、思ったように治療が進まないと不安を感じることもあるかと思います。
TMS治療の経過と着地点には個人差があり、典型的といえるほどパターン化できるわけではありませんが、私たち医療関係者が経験してきた多くの治療の経過と着地点を参考に、少しでもイメージしやすいようにモデルを紹介したいと思います。

治療前だけではなく、治療中に困ったり迷ったりしたときにも読み返していただければ幸いです。
「継続は力なり」の言葉通り、コツコツと治療を続けることはとても大切なことです。

治療の経過には個人差があります

Prognosis of TMS therapy

図1・2TMS治療の経過には個人差があります。治療早期から効果を自覚する方もいますが、多くの場合は、ある程度の回数を重ねることで治療効果を自覚できるようになります。どちらの場合でも一直線に(右肩上がりに)良くなるのではなく、良くなったり悪くなったりの波を繰り返しながら少しずつ良くなっていきます。

TMS治療は効果の感じ方も個人差が大きいので、思うように治療が進まない場合も一人で悩んだり不安になったりする必要はありません。
そのようなときは遠慮なくご相談ください。

治療効果を感じない

TMS治療には副作用がほとんど無いため、治療効果が自覚できないと、本当に何一つ変化していないように感じ、不安になるかもしれません。次のような変化はありませんか?

  • 寝つきが良くなった
  • 朝まで眠れるようになった
  • 頭がスッキリした
  • 身だしなみを気にするようになった
  • ごはんがおいしく感じられるようになった
  • 治療帰りに寄り道した
  • 久しぶりに趣味を再開した
  • 不安の強さ、不安を感じる時間・頻度が低減した
  • 気分の落ち込みの強さ、落ち込みを感じる時間・頻度が低減した
  • 顔色が良くなったと周りから言われた

小さな変化は見逃しがちですが、変化の積み重ねが大切です。

良くなったり、悪くなったり

健康な人と同じように、体調に波があるのは当たり前のことです。
TMS治療に限った話ではありませんが、うつ病の治療中は直線的に良くなるわけではありません。良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、徐々に底上げするように全体的に改善していくというのがよくある治療経過です。
「今日は調子が悪いかな」という日があっても過度に心配する必要はありません。それは健康な人でもよくあることです。

良くなったので治療をやめたい

良くなったと自覚できたからといって、うつ病が治ったとは限りません。
良くなったときに自己判断で治療を中断し、結果として悪化するというのは(TMS治療に限らず)うつ病治療では本当によくある話です。良くなったと感じても、自己判断で中止せずに、まずはご相談ください。

中断後の再開

図3治療中に中断期間ができたからといって、そこで治療を中止する必要はありません。ご心配な場合はまずご相談ください。

さまざまな事情で、一時的に治療を中断せざるを得ないときもあると思います。
中断してペースが乱されたからといって、治療をやめる必要はありません。中断することで一時的に治療は停滞してしまうかもしれませんが、完全に治療前まで戻ってしまうというわけではありません。

他方で、良くなって通院が遠のいた結果、また調子を崩してしまうということは珍しいことではありません。気まずい気持ちがあるかもしれませんが、そういう方は大勢いらっしゃいますので、心配する必要はありません。うつ病は罪悪感という誘惑で、あなたを治療から遠ざけようとしますが、悪いのはうつ病です。安心して再開してください。

良くなるためには「治したい」という、あなた自身のお気持ちが大切です。私たちはそのお気持ちに寄り添い、向き合いたいと常に思っています。一人で悩んだり不安になったりする必要はありません。迷ったとき、不安に思うときは、まずはご相談ください。

TMS治療の目標

Goals of TMS therapy

うつ病治療の目標は、基本的には「〈症状が軽快すること〉に加えて〈家庭・学校・職場における「病前の適応状態」へ戻ること〉」 [1]です。
ただし、これは必ずしも「完全に元の状態に戻ること」ではありません。「完全に元の状態に戻る」ということは、あなたがうつ病を発症してしまった状態に戻るということです。それでは、病気がいつ再発するかわからない不安定な状態に戻るということになります。
時々、病気になる前の状態が「毎日何時間も残業していた」「睡眠時間を削って受験勉強に励んでいた」というような場合がありますが、そういう方がその水準まで戻ろうとすると、再び燃え尽きてしまう危険性があります。

日常というのは切り取られた一瞬のことではなく、継続的・持続的にコツコツと営まれるものです。過酷な状況は心身にとっては負担でしかなく、とても長続きするものではありません。できる限り健康的な日常が過ごせる水準を目指すことも治療の一部です。

どのような場合にせよ、私たちは患者様のQOLの改善に一緒に取り組みます。

QOLとは

QOLとは“quality of life”の略で、「生活の質」・「生命の質」・「人生の質」などと訳されます。生活や人生に対する満足度・充実度や幸福感と関連する概念です。QOLは、健康、気分、仕事や学業、娯楽、人間関係など、さまざまな領域に及びます。

治療を支える過ごし方

Lifestyle Supporting Treatment

治療にあたり、休養はとても大切です。ストレスに満ちた環境からの一時的な避難(休職・休学・入院など)は、悪化を防ぐためにも重要です。
治療の初期は、まずは休養で心身のエネルギーを回復させることを重視します。

ある程度回復した後、復帰を見据えての第一歩は、日常生活を整えることです。
とはいえ、前述の通り、うつ病は右肩上がりに回復するわけではありません。良くなったり悪くなったりを行ったり来たりするものです。
当然、無理は禁物ですので、「今日は調子が悪いな」「ちょっと頑張りすぎたかな」と感じたときは素直に休息しましょう。

睡眠習慣を整える

不眠は多くの精神疾患に共通する症状であり、特にうつ病では、その80~85%に不眠が認められます。うつ病から回復した後に不眠が残っている場合は、再発率が高いといわれています。
睡眠をコントロールするには、就寝時間よりも起床時間が重要です。決まった時間に起床し、目覚めたらすぐに朝日を浴びましょう。

バランスの取れた食事を規則正しくとる

栄養バランスのとれた食事を、規則正しくとりましょう。エネルギー補給という意味だけではなく、決められた時間の食事が、体のリズムを整えてくれます。
特に朝食は重要です。どうしても食欲が湧かない場合は少量でも構いませんし、スープや牛乳を飲むだけでも構いません。

体を動かす

少し気力が出てきて調子の良い日は、ウォーキングやストレッチ・筋トレなど、適度に体を動かすようにしましょう。まずは近所の散歩で構いません。
軽く疲労することで、夜の睡眠に良い影響を与えることも期待できます。

必要に応じて、
ご家族への説明も行います

Walk with your family

TMS治療は、残念ながらまだまだ知名度のある治療ではありません。
よく分からないため、あなたのご家族が「何か怪しい治療なのではないか」「本当に効果あるの?」と心配して治療に反対することがあるかもしれません。そのようなときに上手に説明することが難しい場合(うつ病ではよくあります)、当院にご相談ください。
うつ病治療には、ご家族の理解と協力が不可欠です。
当院は、患者様ご自身の「治したい!」という気持ちを大切にしていますので、治療の有効性や回復への可能性を、ご家族にもきちんとご説明させていただきます。

まとめ

Summary

TMS治療に限らず、うつ病は右肩上がりに順調に回復するわけではありません。良くなったり悪くなったりと、紆余曲折しながら良くなっていくのが普通です。良くなったと感じ、自己判断で治療を中断することで悪化することもあります。
良くなったと感じても自己判断で中止せずに、ぜひ相談してください。

うつ病治療の目標は、「完全に元の状態に戻ること」とは限りません。病気を引き起こした状態ではなく、健康的な日常が過ごせる状態へ戻ることを目指します。

TMS治療は知名度のある治療ではありませんので、ご家族の理解と協力を得るためにご家族に説明することも可能です。

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