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夢遊病とは?原因・症状・対処法をわかりやすく解説

夢遊病(睡眠時遊行症)は、眠っている間に起き上がり、歩き回るなどの行動をとる睡眠障害の一種です。「寝ぼけているだけ」と軽く考えられがちですが、その行動中に思わぬ事故や怪我につながるリスクもあり、ご本人やご家族にとっては深刻な悩みの種となることがあります。

この記事では、夢遊病の正式名称である「睡眠時遊行症」を含め、その定義から具体的な症状、原因、診断方法、そしてご家庭でできる対策や専門的な治療法まで、幅広くかつ詳細に解説します。もしあなた自身やご家族で夢遊病の症状が見られる場合、この記事がその理解を深め、適切な対応をとる一助となれば幸いです。

夢遊病とは

夢遊病は、睡眠中に無意識のうちに複雑な行動をとる睡眠障害の一つです。正式には「睡眠時遊行症(すいみんじゆうこうしょう)」と呼ばれ、国際的な診断基準では「ノンレム睡眠からの覚醒障害」に分類されます。これは、深い睡眠であるノンレム睡眠中に、脳の一部が覚醒し、運動機能などが活動してしまう一方で、意識や記憶をつかさどる脳の他の部分が眠ったままであるために起こると考えられています。

夢遊病は、子供に比較的多く見られますが、大人にも起こり得ます。その行動は単純な起き上がりから、複雑な作業や外出に及ぶこともあり、本人にはその間の記憶がないことがほとんどです。安全面での配慮が非常に重要となる睡眠障害です。

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夢遊病(睡眠時遊行症)の定義

夢遊病、すなわち睡眠時遊行症は、睡眠医学において明確に定義された睡眠障害です。これは、眠っている間に起き上がり、歩き回ったり、様々な行動をとったりするエピソードを特徴とします。これらのエピソードは、睡眠周期の中でも特定の段階で発生することが知られています。

実在する睡眠障害の種類

睡眠障害は非常に多岐にわたり、国際睡眠障害分類(ICSD)などによって細かく分類されています。大きく分けると、以下のような種類があります。

  • 不眠症: 眠りにつくのが難しい、眠りを維持できない、早朝に目が覚めてしまうなど、睡眠の量や質に問題がある状態。
  • 睡眠関連呼吸障害: 睡眠時無呼吸症候群など、睡眠中の呼吸に問題がある状態。
  • 過眠症: 日中に強い眠気を感じるナルコレプシーなど。
  • 概日リズム睡眠覚醒障害: 体内時計と社会的な活動時間とのずれによって起こる睡眠の問題。
  • パラソムニア: 睡眠中や睡眠からの覚醒時に起こる異常行動や異常現象。夢遊病(睡眠時遊行症)はこれに分類されます。他に、夜驚症、レム睡眠行動障害、歯ぎしりなどがあります。
  • 睡眠関連運動障害: むずむず脚症候群や周期性四肢運動障害など、睡眠中に不随意な体の動きが起こる状態。

夢遊病は、この中の「パラソムニア」に属します。パラソムニアは、夢遊病のようにノンレム睡眠中に起こるものと、レム睡眠中に起こるもの(例:レム睡眠行動障害)に分けられます。夢遊病はノンレム睡眠中のパラソムニアの代表的なものです。

ノンレム睡眠との関連性

人間の睡眠は、主に「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」という二つの異なる状態が周期的に繰り返されています。一晩の睡眠中、この周期は約90分間隔で4~5回繰り返されます。

  • レム睡眠 (REM: Rapid Eye Movement): 脳が活発に活動しているにも関わらず、体の筋肉は弛緩している状態です。急速眼球運動が見られるのが特徴で、主に夢を見るのはこの段階です。
  • ノンレム睡眠 (NREM: Non-Rapid Eye Movement): 体を休める深い睡眠の状態です。脳の活動は穏やかになり、脳波によってさらにステージ1(浅い)、ステージ2、ステージ3(深い、徐波睡眠)に分けられます。

夢遊病のエピソードは、このノンレム睡眠の中でも特に深いステージ3(徐波睡眠)から起こることが多いとされています。深い睡眠中に脳の一部(運動機能など)が覚醒し、体を動かせる状態になるにも関わらず、意識や判断をつかさどる脳の他の部分が眠ったままであるため、無意識のうちに歩き回ったり、様々な行動をとったりすると考えられています。

このため、夢遊病のエピソード中に呼びかけられても反応が鈍かったり、エピソード後の記憶がなかったりするのが特徴です。レム睡眠中に起こるレム睡眠行動障害は、夢の内容に伴って体が動いてしまう点で夢遊病とは異なります。

深いノンレム睡眠は睡眠の前半に多く出現するため、夢遊病のエピソードも就床後数時間以内の、比較的早い時間帯に起こることが一般的です。睡眠不足や疲労などでノンレム睡眠が深くなると、夢遊病が起こりやすくなるという関連性も指摘されています。

夢遊病の主な症状

夢遊病(睡眠時遊行症)の症状は、眠っている間に起き上がり、様々な行動をとることにあります。その行動の複雑さや危険性は個人差が大きく、エピソードの長さも数分から30分程度と幅があります。

典型的な行動パターン

夢遊病中に見られる行動は多岐にわたりますが、典型的なパターンとしては以下のようなものが挙げられます。

  • 起き上がる: 突然、ベッドや布団から起き上がります。
  • 座る: ベッドの上や床に座ったまま、うつろな表情でいることがあります。
  • 歩き回る: 部屋の中を歩き回ったり、家の中を徘徊したりします。これが「夢遊病」という名称の由来でもあります。
  • 単純な動作: 服を着たり脱いだりする、ドアを開け閉めする、家具を移動させるなどの比較的単純な動作を行います。
  • 複雑な動作: 料理をする、車を運転しようとする、外に出かける、あるいは本来行うべきではない危険な行動(窓から身を乗り出すなど)をとることもあります。
  • 会話: 意味不明なことを呟いたり、質問に対してトンチンカンな返事をしたりすることがあります。ただし、会話が成立することは稀です。
  • 排泄: トイレ以外の場所で排泄してしまうこともあります。
  • セクシュアルな行動(セクソムニア): 性的ないたずらをしたり、性的暴行に至ることも稀に報告されています。これは夢遊病の関連障害として特に注意が必要です。

これらの行動は、本人が意識的に行っているわけではなく、無意識のうちに発生します。顔の表情はうつろで、目は開いていますが、周囲の状況を正確に認識している様子はありません。

意識や記憶の状態

夢遊病中の本人の意識レベルは非常に低下しています。呼びかけや刺激に対する反応は鈍く、質問されても意味のある返答をすることは少ないです。無理に起こそうとすると混乱したり、興奮したりすることがあります。

エピソードが終了し、本人が完全に覚醒すると、その間の行動についての記憶はほとんど、あるいは全くありません。何をしていたか尋ねても、「何も覚えていない」「ただ眠っていただけ」と答えるのが一般的です。この記憶の欠如も、夢遊病を特徴づける重要な点です。

子供と大人での違い

夢遊病は、特に子供に多く見られる睡眠障害です。3歳から7歳くらいの子供に最も頻繁に起こり、多くは思春期までに自然に消失します。子供の夢遊病のエピソードは、比較的単純な歩行や動作にとどまることが多いですが、それでも転倒や衝突などの危険は伴います。子供の脳の発達段階において、深いノンレム睡眠の割合が高く、睡眠状態の移行が未熟であることなどが関係していると考えられています。

一方、大人の夢遊病は、子供の頃から続いていたり、大人になってから発症したりする場合があります。大人の夢遊病は、子供よりも複雑で危険な行動に至る可能性が高くなる傾向があります。例えば、家を出て遠くまで歩いて行ったり、車を運転したり、調理中に火傷をしたりするなどのリスクが考えられます。また、大人の夢遊病は、ストレス、不安、睡眠不足、特定の薬剤の使用、あるいは他の精神疾患や神経疾患と関連していることも少なくありません。大人の夢遊病は自然に軽快しにくい場合があり、専門家による診断や介入が必要となるケースが多いです。

子供の夢遊病は通常、成長とともに改善するため、過度に心配する必要はありませんが、安全対策はしっかりと行う必要があります。大人の夢遊病は、他の潜在的な健康問題の兆候である可能性もあり、専門医の診察を受けることが推奨されます。

夢遊病の原因と誘発因子

夢遊病(睡眠時遊行症)の正確な原因はまだ完全に解明されていませんが、いくつかの要因が組み合わさって発症に関与すると考えられています。深いノンレム睡眠中に脳の特定の部位だけが目覚めてしまう「解離状態」が一つのメカニズムとして考えられています。

明確な原因は不明だが関与が考えられる要因

夢遊病の直接的な原因は不明ですが、遺伝的な傾向や脳の発達・機能に関わる要素が関与している可能性が指摘されています。特定の遺伝子変異との関連が研究されていますが、単一の遺伝子だけで説明できるものではありません。むしろ、複数の遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合っていると考えられています。

ストレスや疲労

精神的なストレスや身体的な疲労は、夢遊病のエピソードを誘発または悪化させる重要な因子です。強いストレスや過労は睡眠の質を低下させ、ノンレム睡眠の不安定性を高める可能性があります。特に、日中に強いストレスを感じたり、疲れが溜まったりしている日は、夜間に夢遊病が起こりやすくなる傾向があります。

睡眠不足と不規則な生活

慢性的な睡眠不足や、旅行やシフトワークなどによる不規則な睡眠・覚醒サイクルは、夢遊病の強力な誘発因子として知られています。十分な睡眠がとれていないと、次に眠りについた際にノンレム睡眠(特に深いステージ3)が通常よりも強くなり、その後の覚醒が不完全になりやすいためと考えられています。週末の寝だめや昼寝の習慣も、体内時計を乱し、夢遊病のリスクを高める可能性があります。規則正しい時間に十分な睡眠をとることが、夢遊病の予防や軽減に繋がります。

遺伝的要素

夢遊病は家族内で発生することが多く、遺伝的な要素が強く関与していると考えられています。両親のいずれか、または両方が夢遊病の経験がある場合、子供が夢遊病を発症するリスクは統計的に有意に高くなります。一卵性双生児の研究でも、遺伝的要因の寄与が示されています。ただし、遺伝的な素因があるからといって必ず発症するわけではなく、前述のストレス、疲労、睡眠不足などの誘発因子が揃った場合にエピソードが発生しやすくなると考えられます。

関連する他のパラソムニア(夜驚症、セクソムニアなど)

夢遊病は、他のノンレム睡眠からの覚醒障害である「夜驚症(やきょうしょう)」と密接に関連しています。夜驚症は、睡眠中に突然恐怖やパニックに襲われ、叫び声をあげたり暴れたりする症状ですが、これも深いノンレム睡眠中に起こり、エピソード後の記憶がない点が共通しています。夜驚症と夢遊病は、同じ子供が両方の症状を経験することも少なくありません。

また、前述のセクソムニア(睡眠時性行動異常)も、夢遊病のバリエーションの一つと見なされることがあります。これは、睡眠中に無意識のうちに性的行動をとるもので、夢遊病と同様に深いノンレム睡眠中に起こることが多いとされています。

その他、むずむず脚症候群などの睡眠関連運動障害や、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠関連呼吸障害が、夢遊病を誘発したり合併したりすることもあります。これらの睡眠障害が存在する場合は、その治療が夢遊病の改善につながることもあります。

さらに、発熱、特定の薬剤(精神安定剤、睡眠薬、抗うつ薬など)、アルコール、カフェインなども夢遊病の誘発因子となり得ます。基礎疾患として、てんかん、偏頭痛、頭部外傷などが関連している可能性も指摘されていますが、これらが直接的な原因となるケースは少ないと考えられます。

このように、夢遊病は単一の原因で起こるのではなく、遺伝的な素因に、ストレス、疲労、睡眠不足、他の睡眠障害や基礎疾患、特定の物質摂取などが誘発因子として加わることで発症すると理解されています。

夢遊病の診断方法

夢遊病(睡眠時遊行症)の診断は、主に患者本人からの情報と、特に家族や同居者からの詳細なエピソードの聞き取りに基づいて行われます。多くの場合、特別な検査が必要となるわけではありませんが、他の睡眠障害やてんかんなどの可能性を除外したり、症状の重症度を評価したりするために、睡眠専門医による評価や検査が行われることがあります。

診断はどのように行われるか

夢遊病の診断は、主に以下のステップで進められます。

  • 詳細な病歴聴取: いつ頃から、どのくらいの頻度で症状が現れるか、どのような行動をとるかなどを詳しく聞きます。
  • 同居者からの情報収集: 夢遊病中の本人はエピソードを覚えていないため、家族や同居者からの観察情報が診断において最も重要となります。
  • 他の睡眠障害や疾患の除外: 同様の症状を引き起こしうる他の睡眠障害(レム睡眠行動障害、夜驚症など)や、てんかんなどの神経疾患がないかを確認します。
  • 必要に応じた検査: 診断が難しい場合や、他の疾患が疑われる場合に睡眠ポリグラフ検査などを行います。

医師による問診と家族からの情報

医師は、問診を通して、夢遊病のエピソードがいつ、どのように起こるか、その行動の内容、頻度、持続時間、そしてエピソード後の本人の状態(記憶の有無、混乱の程度)などを詳細に確認します。

しかし、前述のように夢遊病中の本人はエピソードを覚えていないため、家族や同居者からの情報が診断において極めて重要になります。「夜中に起き上がって歩き回っているのを見た」「意味不明なことを喋っていた」「家具にぶつかっていた」「鍵を開けようとしていた」など、具体的なエピソードの内容や頻度、発生時間帯、エピソード終了後の本人の様子などを詳しく医師に伝えることが診断の助けとなります。可能であれば、エピソード中の様子をスマートフォンなどで動画撮影しておくことも、診断に非常に役立ちます。(ただし、プライバシーには十分配慮してください。)

また、日中の眠気、他の睡眠に関する問題(いびき、寝言、歯ぎしりなど)、服用している薬、既往歴(特に神経疾患や精神疾患)、家族歴(家族に睡眠障害や夢遊病の人がいるか)なども、診断のために重要な情報となります。

睡眠ポリグラフ検査の役割

睡眠ポリグラフ検査(PSG: Polysomnography)は、一晩の睡眠中に脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸、酸素飽和度、いびき、体の動きなどを同時に記録する検査です。夢遊病の診断においては、必ずしも必須の検査ではありませんが、以下のような場合に有用です。

  • 診断の確定: 典型的な夢遊病のエピソード中にPSGを記録することで、それがノンレム睡眠中の覚醒障害であることを客観的に確認できます。ノンレム睡眠の深いステージ(ステージ3)で脳波が覚醒パターンを示し、同時に筋活動が上昇して複雑な行動が見られることが確認できれば、夢遊病である可能性が高まります。
  • 他の睡眠障害の合併や除外: 睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害など、夢遊病を悪化させたり、似た症状を引き起こしたりする他の睡眠障害がないかを確認できます。また、てんかん性の発作など、夢遊病と間違えられやすい他の病態を除外するためにもPSGは役立ちます。てんかんの場合、PSGで特徴的なてんかん波が記録されることがあります。
  • 重症度の評価: エピソードの頻度や、睡眠全体の質を評価するために行われることもあります。

ただし、一晩のPSG検査中に必ずしも夢遊病のエピソードが出現するとは限らないため、PSGだけでは診断できないケースもあります。その場合は、問診情報がより重要です。

診断基準(DSM-5など)

夢遊病(睡眠時遊行症)の診断は、国際的な診断基準である「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版(DSM-5)」や「国際睡眠障害分類 第3版(ICSD-3)」に基づいて行われます。これらの基準では、以下のような特徴を満たす場合に診断が考慮されます。

  • 睡眠中に繰り返し、起き上がり歩き回るエピソードがある。
  • エピソード中、本人を覚醒させるのは困難である。
  • エピソード中またはエピソード直後、本人に呼びかけてもほとんど反応がない、あるいは反応が鈍い。
  • エピソード後、本人はその出来事を思い出せない(記憶がない)。
  • エピソード中、あるいはエピソード後の覚醒直後、錯乱している様子が見られることがある。
  • これらの行動によって、本人に苦痛を与えているか、社会生活、学業、職業上の機能に支障をきたしている。
  • これらのエピソードは、物質(薬物乱用、投薬など)の生理学的作用や他の医学的疾患では説明できない。

これらの診断基準は、夢遊病を他の睡眠障害や医学的疾患と区別し、適切な診断を下すために専門家が使用するものです。一般の人がこれらの基準だけを見て自己診断することは難しいため、症状が気になる場合は専門医に相談することが重要です。

診断が確定したら、次は安全対策や必要に応じた治療へと進んでいきます。

夢遊病の対策と予防

夢遊病(睡眠時遊行症)の根本的な治療法は確立されていませんが、エピソードの頻度や重症度を軽減し、何よりもエピソード中の怪我や事故を防ぐための対策が非常に重要です。ご家庭でできる対策や、生活習慣の見直しによる予防が中心となります。

家庭でできる安全対策

夢遊病中の行動は無意識であるため、本人は危険を認識できません。そのため、エピソード中の怪我や事故を防ぐための環境整備が最も重要です。以下のような安全対策を講じましょう。

  • 寝室の安全確保:
    • 窓やドアに鍵をかける。(特に高層階の場合は落下防止のために厳重に)
    • 寝室内に危険な物(刃物、割れ物、先の尖った物など)を置かない。
    • 転倒の原因となる障害物(コード類、家具の角、おもちゃなど)を床に置かない。
    • ベッドサイドの床にクッション性のあるマットを敷くなど、転倒時の衝撃を和らげる工夫をする。
  • 家全体の安全確保:
    • 玄関やベランダ、勝手口などの外に通じるドアに、本人が無意識に開けられないような二重鍵や補助鍵を設置する。鍵は家族がすぐに開けられる場所に保管する。
    • 階段のある家では、階段の上り口・下り口にベビーゲートのような柵を設置し、転落を防ぐ。
    • ガスコンロや電気製品(ヒーターなど)は、就寝前に必ず消えているか確認する。必要であれば、タイマー付きの製品を使う、元栓を閉めるなどの対策も検討する。
    • 家の中に設置された警報装置(セキュリティシステム)がある場合は、誤作動を防ぐ設定にしておくか、エピソード中に作動しないか確認する。
    • 寝る前に、本人が安全な場所にいることを確認してから家族も就寝する。

規則正しい睡眠習慣

睡眠不足や不規則な睡眠は夢遊病の誘発因子となるため、規則正しい睡眠習慣を確立することが予防に繋がります。「睡眠衛生」と呼ばれる、質の良い睡眠をとるための環境や習慣を整えることが重要です。

  • 毎日一定の時間に就寝・起床する: 休日も平日と大きな差がないように心がける。体内時計が安定し、深いノンレム睡眠が過剰に強くなるのを防ぎます。
  • 十分な睡眠時間を確保する: 個人差がありますが、一般的に大人で7〜8時間、子供はそれ以上の睡眠が必要です。自分に必要な睡眠時間を把握し、確保するように努めます。
  • 寝る前のリラックスタイムを設ける: 就寝前にスマホやPCの使用を避け、温かいお風呂に入る、軽い読書をする、ストレッチをするなど、心身をリラックスさせる時間を作ります。
  • 寝室環境を整える: 寝室は暗く、静かで、快適な温度(一般的に18~22℃程度)に保つようにします。
  • カフェインやアルコールの摂取を控える: 午後遅い時間帯や就寝前のカフェイン摂取は睡眠を妨げます。アルコールは一時的に眠気を誘いますが、睡眠の質を悪化させ、夜中に目覚めやすくなるため、就寝前の摂取は控えるべきです。
  • 寝る前の激しい運動や食事を避ける: 就寝直前の激しい運動や満腹状態は、睡眠の質を低下させる可能性があります。

ストレスの軽減

ストレスも夢遊病の誘発因子の一つです。日頃からストレスを溜め込まないように、適切なストレスマネジメントを心がけることが予防や軽減に繋がります。

  • リラクゼーション法の実践: 深呼吸、瞑想、ヨガ、筋弛緩法など、自分に合ったリラクゼーション法を見つけて日課に取り入れます。
  • 趣味や楽しみを持つ: 気分転換になるような趣味や活動に時間を使います。
  • 適度な運動: 定期的な運動はストレス解消に効果的ですが、就寝直前は避けるようにします。
  • 悩みや不安を解消する: 一人で抱え込まず、信頼できる家族や友人、専門家(心理士、カウンセラーなど)に相談する。
  • ポジティブな考え方を意識する: 物事の良い面に目を向け、感謝する習慣を持つこともストレス軽減に役立ちます。

これらの対策は、夢遊病のエピソードそのものを完全に無くすわけではありませんが、発生頻度を減らし、エピソード中の安全性を高めるために非常に有効です。特に子供の夢遊病の場合は、これらの対策を継続することで、成長とともに症状が軽快していくことが期待できます。大人の場合は、これらの対策に加え、必要に応じて専門的な診断や治療を検討することが重要になります。

夢遊病の治療法

夢遊病(睡眠時遊行症)に対する確立された単一の治療法はありません。治療の目標は、エピソード中の危険な行動を防ぐこと、エピソードの頻度や重症度を軽減すること、そしてそれによって本人や家族のQOL(生活の質)を改善することにあります。治療法は、症状の頻度、重症度、危険性、そして年齢などに応じて選択されます。

基本的な対応

夢遊病と診断された場合の最初の、そして最も重要な対応は、前述した家庭での安全対策を徹底することです。エピソード中に本人が怪我をしたり、他者に危害を加えたり、家から出てしまったりするリスクを最小限に抑えることが第一です。

また、誘発因子の特定と排除も基本的な対応に含まれます。睡眠不足、不規則な生活、ストレス、アルコール、特定の薬剤などが誘発因子となっている場合は、それらを改善または排除することで、エピソードの頻度を減らすことが期待できます。規則正しい睡眠習慣の確立やストレスマネジメントの実践は、基本的な予防策であると同時に、治療の基礎となります。

子供の夢遊病の多くは成長とともに自然に軽快するため、危険な行動がない、頻度が低いなどの場合は、安全対策と生活習慣の改善を行いながら経過観察することが一般的です。

夢遊病のエピソード中に本人が歩き回っているのを見つけた場合、無理に大きな声で呼びかけたり、強く揺り動かしたりして起こそうとすると、本人が混乱したり、抵抗したり、攻撃的になったりすることがあります。優しく、穏やかに、安全な場所に誘導するのが望ましい対応とされています。ベッドに戻るように促し、静かに見守ることで、自然にエピソードが終息するのを待つのが通常です。どうしても起こす必要がある場合は、穏やかな声で繰り返し名前を呼ぶなど、徐々に覚醒を促すようにします。

薬物療法

夢遊病に対して必ずしも薬物療法が必要となるわけではありません。しかし、エピソードの頻度が非常に高い、危険な行動を伴う、他の睡眠障害や精神疾患を合併しているなど、症状が重く、安全対策や生活習慣の改善だけでは不十分な場合には、薬物療法が検討されることがあります。

夢遊病の治療に用いられることがある薬剤としては、以下のようなものがあります。

  • ベンゾジアゼピン系薬剤: クロナゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬剤が、夢遊病のエピソードを抑制するために用いられることがあります。これらの薬剤は、ノンレム睡眠の深い段階(ステージ3)を減少させる作用があり、これによって夢遊病のエピソード発生を抑えると考えられています。通常、就寝前に少量服用します。効果は比較的早く現れることが多いですが、眠気、ふらつき、依存性などの副作用に注意が必要です。特に高齢者では転倒リスクが高まる可能性があります。
  • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI): 稀に、うつ病や不安障害などを合併している場合や、ベンゾジアゼピン系薬剤が効果がない場合にSSRIなどの抗うつ薬が検討されることもあります。これらは、セロトニン系の働きを調整することで、睡眠構造や精神状態に影響を与え、夢遊病の改善に繋がる可能性があります。効果が出るまでに時間がかかる場合があります。

薬物療法を開始する際には、医師とよく相談し、薬剤の種類、用量、副作用について十分な説明を受けることが重要です。特に子供への薬物療法は慎重に行われ、必要最小限の期間にとどめることが一般的です。

行動療法

薬物療法に加えて、あるいは薬物療法を用いずに、行動療法が夢遊病の治療に用いられることもあります。

  • 定時覚醒法(Scheduled Awakening): これは、夢遊病のエピソードが起こりやすい時間帯を特定し、その時間帯の15~30分前に本人を意図的に起こす方法です。起こした後、しばらく(例えば5~10分程度)起きた状態を維持させてから再び眠らせます。これを数週間続けることで、夢遊病のエピソードが発生しにくくなる効果が期待できます。深いノンレム睡眠からレム睡眠や覚醒期への移行をスムーズに促すことで、脳の解離状態を防ぐと考えられています。特に子供の夢遊病に有効なことが多い方法です。
  • リラクゼーション法: 前述のストレス軽減策にも含まれますが、就寝前にリラクゼーション法(例:腹式呼吸、漸進的筋弛緩法、誘導イメージ法など)を行うことで、睡眠前の緊張を和らげ、より質の高い、安定した睡眠を促進し、夢遊病のエピソードを減らす効果が期待できます。
  • 催眠療法: 熟練した専門家によって行われる催眠療法が、夢遊病の治療に用いられることもあります。催眠状態下で、夢遊病中の行動を安全なものに置き換えたり、睡眠中のコントロール感を高めたりする暗示を与えたりします。すべての症例に有効なわけではありませんが、一部の症例で効果が報告されています。
  • 認知行動療法(CBT): 特に大人の夢遊病で、ストレスや不安が誘発因子となっている場合に有効なことがあります。睡眠に関する誤った考え方や、ストレスへの非適応的な対処法を修正し、より健康的な睡眠習慣やストレスマネジメントスキルを身につけることを目指します。

治療法の選択は、個々の患者さんの状況に応じて、医師とよく相談して決定されます。多くの場合、安全対策、生活習慣の改善、そして必要に応じて薬物療法や行動療法を組み合わせて行われます。

こんな時は医療機関へ相談

夢遊病(睡眠時遊行症)は、特に子供の場合、成長とともに自然に軽快することが多いため、全てのケースで直ちに医療機関を受診する必要があるわけではありません。しかし、以下のような場合には、専門医への相談を検討することが強く推奨されます。

受診を検討すべきケース

  • エピソードが頻繁に起こる: 週に数回以上など、エピソードの頻度が高い場合。
  • 危険な行動を伴う: 窓から身を乗り出す、鍵を開けて外に出ようとする、火を使う、刃物を持つ、車を運転しようとするなど、本人や周囲の人にとって危険な行動が見られる場合。
  • 怪我をしたり、他者に危害を加えたりしたことがある: 夢遊病中の行動によって実際に怪我をしたり、誤って他者を傷つけたりした場合。
  • 日中の活動に影響が出ている: 睡眠の質の低下により、日中に強い眠気を感じたり、集中力が低下したり、学校や仕事に支障が出ている場合。
  • 症状が成人になってから始まった、または悪化している: 子供の頃から症状があったが大人になっても続いている場合や、大人になってから初めて症状が出た場合。大人の夢遊病は、他の病気やストレスなどと関連している可能性があるため、詳しい検査が必要です。
  • 他の睡眠障害を合併している可能性がある: 激しいいびき、睡眠中の呼吸停止、足の不快感、夜間の体のぴくつきなど、夢遊病以外の睡眠障害が疑われる場合。
  • ご本人やご家族が強い不安や苦痛を感じている: エピソードの度に不安を感じる、安全面での心配が尽きないなど、心理的な負担が大きい場合。
  • 家庭での安全対策や生活習慣の改善だけでは不十分な場合: 前述の対策を試しても、症状の改善が見られない場合。

専門医・診療科について

夢遊病のような睡眠障害について相談する場合、いくつかの診療科が考えられます。

  • 精神科または心療内科: ストレスや精神的な要因が関与している場合や、うつ病、不安障害などの精神疾患を合併している場合に適切です。
  • 神経内科: てんかんなど、脳神経系の疾患が疑われる場合に適切です。
  • 睡眠専門外来: 睡眠障害全般を専門的に診る医療機関です。睡眠ポリグラフ検査などの専門的な検査設備も整っており、診断や治療に最も適しています。大学病院や大きな総合病院に設置されていることが多いですが、最近では民間の睡眠クリニックも増えています。
  • 小児科: 子供の夢遊病の場合、まずかかりつけの小児科医に相談するのが良いでしょう。必要に応じて睡眠専門医などに紹介してもらえる場合があります。

どの診療科を受診すべきか迷う場合は、まずはかかりつけ医に相談し、専門医への紹介を検討してもらうと良いでしょう。受診する際には、夢遊病のエピソードについて、いつから、どのくらいの頻度で、どのような行動をとるのかなど、できるだけ具体的に説明できるよう準備しておくとスムーズです。可能であれば、エピソードの様子を記録したメモや動画などを持参すると、診断の助けになります。

まとめ

夢遊病、正式には睡眠時遊行症は、深いノンレム睡眠中に起こるパラソムニアの一種です。睡眠中に起き上がり、歩き回ったり、様々な行動をとったりしますが、本人にはその間の意識がなく、記憶もありません。

夢遊病の原因は明確ではありませんが、遺伝的な素因に加え、睡眠不足、不規則な生活、ストレス、疲労などが誘発因子となることが知られています。子供に多く見られ、多くは成長とともに自然に軽快しますが、大人にも起こり得ます。大人の夢遊病は、他の睡眠障害や精神的な問題と関連していることもあります。

診断は、本人と特に家族からの詳細な問診情報に基づいて行われることが多く、必要に応じて睡眠ポリグラフ検査が行われます。

夢遊病の対策としては、まずエピソード中の怪我や事故を防ぐための家庭での安全対策が最も重要です。窓やドアに鍵をかける、危険物を片付ける、階段に柵を設けるなど、具体的な安全策を講じましょう。また、規則正しい睡眠習慣を心がけ、ストレスを軽減することも、エピソードの頻度を減らすために有効です。

治療法としては、これらの基本的な対策に加えて、症状が重い場合や危険を伴う場合には、ベンゾジアゼピン系薬剤などの薬物療法が検討されることがあります。また、特定の時間帯に起こす定時覚醒法や、リラクゼーション法、催眠療法などの行動療法も用いられます。

夢遊病の症状が見られる場合、特に危険な行動がある場合、頻度が高い場合、日中の活動に支障が出ている場合、大人になってから発症した場合などは、精神科、神経内科、睡眠専門外来などの専門医に相談することが推奨されます。適切な診断と対策を行うことで、夢遊病によるリスクを管理し、ご本人やご家族の安心に繋げることができます。

夢遊病は、適切な知識と対応があれば、多くの場合は安全に管理できる睡眠障害です。一人で悩まず、必要であれば専門家の助けを借りることが大切です。

【免責事項】
この記事は情報提供のみを目的としており、医学的なアドバイスや診断、治療を保証するものではありません。夢遊病の診断や治療については、必ず医療機関を受診し、専門医の指示に従ってください。この記事の情報に基づいてご自身で判断されることのないようお願いいたします。

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